「AIを創る人材」とは誰か?AIファースト組織に必要な3タイプと投資の優先順位

「生成AIは全社に配った。利用率も高まっている。それでも、業務そのものは何も変わっていない」――AI推進を担う方から、こうした相談を受ける機会が増えました。
2026年8月20日、AVILENはウェビナー「AIファースト組織が求める『AIを創る人材』とは」を開催しました。登壇したのは、AVILEN代表取締役の高橋光太郎です。
当日寄せられたのは、「AI活用が重要なのは分かる。では、自社では何から始めればよいのか」という実務的な問いでした。
本記事では、当日のQ&Aで交わされた内容を整理してお届けします。
寄せられた質問は、実際に社内でAI推進を担っている方々のリアルな悩みそのものです。
同じ壁の前に立っている方にとって、次の一手を決める材料になるはずです。
監修者

株式会社AVILEN
代表取締役 / データサイエンティスト
創業メンバーとしてAVILENに参画し、2021年から代表取締役に。 2023年にAVILENを東証グロースに上場。 東京大学大学院を修了し、機械学習による即時的な津波高予測の研究に従事。 金融データ活用推進協会標準化委員。
前提|「AIを創る人材」とは、モデルを作れる人のことではない
Q&Aに入る前に、当日の前提を簡潔に共有します。
AI人材と聞いて思い浮かぶのは、プロンプトを書くのがうまい人、ツールを使いこなす人、データサイエンティストといったところでしょうか。
ウェビナーで扱ったのは、そのいずれでもありません。私たちAVILENが「AIを創る人材」と呼ぶのは、AIを前提に業務そのものを作り変えられる人です。
多くの企業は「使っている」が、業務は変わっていない
社内のAI活用は、おおむね次の4段階に分かれます。
- 使ったことがある
- 月に数回、調べ物などに使う
- 毎日の業務で使う
- AIを前提に、業務そのものを作り変える
アンケートやログで利用率を計測すると、多くの企業で7〜8割という数字が出ます。
しかしその中身は、ほとんどが1と2です。3に到達する人も最近は着実に増えていますが、会社として大きなインパクトが出るのは4だけです。
マッキンゼーのグローバル調査『The State of AI』(2025年版)でも、組織の88%がAIを日常的に活用している一方で、AIによって5%以上のEBITインパクトを出せている企業はわずか6%という結果が出ています。
つまり、AI活用は広がっている一方、利益インパクトまで明確に出せている企業は一部にとどまることが示されているのです。
AIは「脳」でしかない
なぜ4が難しいのか。
理由はシンプルで、AIは脳でしかないからです。
AIは優秀な「脳」です。しかし、脳だけでは仕事は進みません。
手足となる業務システム、判断材料となる社内データ、動く場となる業務プロセスとつながってはじめて、AIは成果を生み出します。
配っただけのAIは、議論の相手としては非常に優秀ですが、社内のデータも業務システムも仕事の文脈も知りません。できることは限られます。
AIエージェントが効果を発揮するのは、組織につながったときです。
会社のデータを知っている。日常的に使うツールやシステムをAIも使える。人やチームとの業務プロセスの中に組み込まれている。業務の文脈を理解している。
この状態を作って初めて、意味のあるAIエージェントが作れます。
【関連記事】AIネイティブ経営とは──AIエージェントが組織の常識を書き換える(2026年上期版)
必要なのは3タイプの人材
そのうえで、AIファースト組織に必要な人材は3タイプに整理できます。
①経営トップ層(プロセス変革を意思決定する)
プロセスを壊す判断、基盤構築へのゴーサイン、資源配分の意思決定は、経営でなければできません。
ここが腹落ちしていないと、そもそも話が始まりません。
②事業部門の変革人材(業務をAI前提に作り変える)
業務のやり方が変わるのは、その業務に従事している人たちです。DX部門の仕事が変わるわけではありません。
効果も大変さも引き受ける当事者がエージェントを作らなければ、プロセスは変わりません。
③環境構築人材(AIが働ける基盤を整備する)
AIと組織がシンクロできる状態を作る人です。
②の人たちにこの環境を渡さなければ、いくら意欲があっても面白いものは作れません。
投資の優先順位も明確です。全社的なAIよりも適切なAIが大事で、適切なAIよりも使える人が重要で、使える人よりも、まず働ける環境とプロセスを作れる人が重要です。
全員に投資できるのが理想ですが、資源に限りがあるなら、環境を作れる人とプロセスを作れる人から投資してください。
以下のQ&Aは、この前提の上で交わされたものです。
Q&A|AIファースト組織づくりへの7つの質問
Q1. 事業部門に「自分ごと」として持たせるには、どうすればいいですか
Question:事業部門のマインドセットを変える、具体的な方法を教えてください。
Answer:突き詰めると、責任を持たせるか、効果実感を持ってもらうかの2択です。
最も効果的なのは、トップダウンでミッションを持たせることです。
「あなたたち自身が変わらなければならない」と責任の所在を明確にする。何も持っていない状態からマインドセットだけを変えようとするのは、現実的に困難です。
ただし、いきなり全部門に号令をかける必要はありません。大手・中堅企業であれば、事業部門の中を探せば、こうしたことが好きな人が必ずいます。
これまで支援してきた企業でも、例外なくいました。そうした課長・部長クラスの人材を見つけ、意義のあるエージェントを作れる環境を提供し、主体的に試してもらう。ここが最初の一歩になります。
そのサイクルが回り始めると、「あの部署、何か変わったらしい」という話が口コミで広がっていきます。これが効果実感の側です。
もうひとつの手段が、実践的な研修です。
手を動かして「エージェントはここまでやれるのか」と体感すると、理解が一気に進む方が多くいます。人を選んでそうした研修を受けてもらうのも有効です。
【関連記事】【AI変革事例_金融業界】「AIを使う組織」への転換を全面支援。CoE構築アドバイスと人材育成計画で活用を定着
Q2. 非エンジニアが作ったエージェントを、誰が直し続けるのですか
Question:エージェントを作る難易度は下がりましたが、機能を追加し、メンテナンスして使い続けることは非エンジニアにはとても難しいと感じています。情シスはどうされていますか。
Answer:おっしゃるとおり、メンテナンスはかなり難しい領域です。
本番レベルで使うエージェントとなればなおさらで、「動いてはいるが、裏側がどうなっているか分からない」という状態は、非エンジニアからすれば不安でしょう。
ただし、そのレベルまで到達しているのであれば、それはかなり良い状態です。そのうえで、役割を分けて考えます。
現場でできること:機能の追加やデータの整理程度であれば、いまはエージェント自体が助けてくれるため、現場で対応できてしまいます。
横断部門が担うこと:「これは本当に大丈夫なのか」という健全性の判断、システムアップデートに伴う接続の作り直しといった技術の深い部分は、横断部門が運用保守を支援するのが有効です。
会社によっては、事業部門の中に技術者を1名置く形をとっているケースもあります。
AIエージェントにも「レビュー責任」が必要
そして、見落とされがちですが重要なのがレビューの習慣です。
たとえば商談情報をAIが蓄積していく仕組みでは、データが増えるほど、少ないデータを前提に作ったエージェントがうまく動かなくなります。
これは人と仕事をするときと変わりません。ジュニアメンバーに任せた仕事を顧客に出す前にレビューするのと同じで、AIと働くときも、最後は人が自分の視点と責任で見る。そこで「何かおかしい」と気づけることが決定的に重要です。
気づけさえすれば、横断部門に助けを求められます。つまり、メンテナンスの深い部分に対する責務の持たせ方を設計しておくことが要点になります。
【関連記事】バックオフィス業務におけるAIエージェント活用 ― よくある疑問と専門家の見解
Q3. 情シス部門がない中小企業は、どこから手をつけるのが現実的ですか
Question:情シス部門がない中小企業の場合、体制面・開発するエージェント面のどちらから着手するのが現実的でしょうか。
Answer:中小企業には、大手にはない有利な点があります。速いことです。トップ層が動けば全体が動きますし、ステークホルダーも少ない。この有利さを活かさない手はありません。
したがって、中小企業ではまずトップからが答えになります。トップ層がまだAIを日常的に使っていないのであれば、まずはトップ層向けの勉強会を開き、実際にAIを日常業務で使ってもらうことが最優先です。
体制面とエージェント面のどちらから手をつけるかは、社内の人材状況で決まります。
- 任せられそうな人が組織に1人もいない場合:エージェント面を進めても続きません。まず人(体制面)です。
- 1人か2人はいそうな場合:全社の育成投資を通すためにも、エージェントをひとつ作り、「これは投資する意味がある」と実感できる状態を先に作ります。エージェント面からです。
会社のフェーズによって答えは変わりますが、共通しているのは、トップへの投資が最も効率がいいという点です。
Q4. AI資産・スキル・ノウハウは必要ですか。優先順位はありますか
Question:AI人材を育てるのに必要な要素として、AI環境構築・AIプロセス設計のほかに、AI資産・AIスキル・ノウハウは必要でしょうか。また、優先順位はありますか。
Answer:必要です。とくに近年「ハーネス」と呼ばれ始めた、AIを業務で安全かつ継続的に使うための周辺環境が重要になります。
具体的には、「データマネジメントに関する技術や知識」と「システムとの接続」です。この2つは環境構築に含まれる部分でもありますが、意識的に切り出して考える価値があります。
資産という観点では、2種類あります。ひとつは、AIにどう振る舞わせるかを記述したプロンプトそのもの。これは明確に資産です。
もうひとつは、そうしたものを作るときにどう進めたかという、組織として壁を越えた経験・ノウハウです。後者も間違いなく資産になります。
優先順位については、環境を作る人たちの観点では次の順番になります。
- ガバナンスと接続:どのデータ・システムに、どの権限でAIを接続するか
- 業務プロセス設計:接続されたAIを使って、どの業務をどう変えるか
この順序は動かしにくいものです。接続がどこまで進んでいるかが、各部門が作れるエージェントの能力の上限を決めてしまうからです。
【関連記事】AI内製化の成功事例11選|「外注し続ける組織」から「自走する組織」へ変えた企業は何をしたか
Q5. 「野良エージェント」とコストは、どうルール化すればいいですか
Question:事業部でまずは自由にやってもらう方針は前に進むと思いますが、野良エージェントが増える、コスト管理ができなくなるといった問題が起きるかと思います。
他社ではどうルール化していますか。事前に申請させると推進にブレーキがかかりますし、業務利用の段階で審査を挟むと、放置される施策とリソースの問題がすぐに起きるのではないでしょうか。
Answer:まず前提として、野良エージェントが問題になるくらいまでやったほうがいいというのが私たちの見解です。
そのカオスの中で制約条件を付けていく。もちろん無秩序に放置してよいという意味ではありません。
ただし、問題が一切起きないほど厳しく制限してしまうと、組織はAI活用の経験を積めません。一定のガードレールを設けたうえで、試行錯誤が起きる余地を残すことが重要です。
コスト管理については、答えははっきりしています。現在のAIサービスは、いずれも組織単位での予算設定ができるはずです。
どれだけ使ってよいかを事前に決めておき、勝手に作られたものであっても上限を超えれば動かなくなる。この設計を先に入れておきます。自動課金にせず、制限をかけておくことが要点です。
もうひとつ、自由の与え方には区別が必要です。
AIの普段使いは全員が自由にやるべきです。一方、AIプロセスの設計を「全員でやるぞ」と号令をかけると、意味のないものが大量に生まれます。
プロセスは極めて重要で、多くのヒト・モノ・カネがそこで価値に変わります。だからこそ、エースクラスや業務の担当者など、力のある人から始めるべきです。
つまり、事業部門の中で責務を持った人たちが自由に振る舞える状態を作る。そのために、MCP接続をはじめとする接続や権利関係の環境を提供し、コストには上限を設けておく。この組み合わせが現実的です。
【関連記事】AIガバナンス策定と社内ルール整備の実践
Q6. 権限設計は、どこまで詰めるべきですか
Question:「社長との1on1であれば権限設計を細かく決めなくてよい」という点が理解できませんでした。例をいただけますか。
※ウェビナー内で、『まずは社長との1on1からAI環境構築を始める』という手法をご紹介していました。
Answer:営業を例に説明します。商談情報をAIで一箇所に集めるとします。このとき、全営業担当の商談情報を全員が見られる状態にするわけにはいきません。
AIと組織がつながるということは、AIがさまざまな情報を見るようになるということです。新入社員向けのAIエージェントが、社長しか見てはいけない商談情報にアクセスできてしまう。これは明確にまずい状態です。
全社でAIファーストを進めるうえでは、権限設計と情報統制が必要になります。そして、これがかなり手間のかかる工程です。
一方、社長向けのAIエージェントを作る場合はどうか。見てはいけない情報がゼロとは言いませんが、社長向けのエージェントであれば、一般社員向けに比べてアクセス権限の制約は大幅に少なくなります。
もちろん例外はありますが、権限設計の複雑さを大きく下げられるのは確かです。つまり、権限設計という論点そのものを大幅に削ぎ落とせます。
これが、最初の環境構築をトップ向けに絞ることを推奨する理由のひとつです。
ユーザーが明確で、見てはいけないデータがほぼなく、しかも意思決定者がAIの実力を自分の目で確かめられる。
全社一斉に環境整備をすると、関わる人数が多すぎて大半は頓挫します。絞ることが重要なのです。
Q7. 対象として扱うAIエージェントは、どのツールですか
Question:御社が対象として扱っているAIエージェントは何になりますか。
Answer:ツールにはほとんど制約を置いていません。Claude Codeも、Copilotも、Geminiも扱います。
現時点で各AIの性能差やできることの差は確かに存在しますが、それは時間の問題で追いつきます。
ツールとしての差や使い方の差はあっても、根本にあるのは変わりません。AIをシステムやさまざまなものとつなぎ込み、それをもって業務オペレーションを変えるエージェントを作ることです。どのAIであっても、ここは共通します。
作る対象も幅広くあります。マーケティング、バックオフィス、営業部門。たとえば営業であれば、商談情報を一箇所に集めるところから始まります。
現状、顧客が何を言っているかという本当の知見は営業担当の頭の中にしかありません。
これを集められれば、製品開発に渡すこともできますし、営業への資料作成支援にも、顧客との壁打ちエージェントにもつながります。
設計開発部門であれば図面を起点にした業務オペレーションなど、対象は多岐にわたります。
まとめ:7つの質問から見えた3つの共通論点
7つの質問は、それぞれ立場も規模も異なる方から寄せられたものですが、答えの根本は共通していました。
① 「作れる人」より「つなげる環境」が先
Q3・Q4・Q6に共通するのは、環境が先という順序です。
接続がどこまで進んでいるかが、各部門が作れるエージェントの上限を決めてしまいます。人材育成の前に、あるいは並行して、つなぐ側への投資が必要です。
そして環境整備は全社一斉ではなく、トップ向けか、マーケティング・バックオフィスといった領域に絞るのが現実的です。
② ガバナンスは、止めるためではなく走らせるために引く
Q5で語られたとおり、事前申請でブレーキをかけるアプローチは推進と両立しません。
代わりに、予算上限のような自動的に効く制約を先に置き、その内側では自由に動けるようにする。「とりあえずガイドラインを作りました」ではない、本質的なガードレールの設計が求められます。
③ 小さく問題が起きるところまでやる
Q2の「レビューして気づく」も、Q5の「野良エージェントが問題になるくらいやったほうがいい」も、同じことを言っています。
問題が顕在化しない限り、組織は次の設計に進めません。痛みを実際に経験することが、統制の質を決めます。
そして、技術的にできないという状況はほぼ存在しません。業務システムにAPIが開いていない企業がほとんどですが、Excelでダウンロードして蓄積することはできます。
社内メールと電話が中心だったレガシーな製造業のお客様が、2週間で自部門のメールを廃止しTeamsに移行した例もあります。組織のルールを入れ替えることは、技術ではなく意思の問題です。
3つの共通論点で重要なのは、どのAIツールを選ぶかではなく、AIをどの業務プロセスに組み込み、どのデータ・システムと接続し、どの成果指標で改善していくかです。
AVILENは、この設計から実装・定着までを支援しています。
AVILENの支援について
私たちAVILENは、「データとアルゴリズムで、人類を豊かにする」をパーパスに、AI戦略コンサルティング・AI技術実装・デジタル組織開発の3つを一気通貫で提供しています。
本記事で触れた3タイプの人材に対して、それぞれ次の形で伴走しています。
経営トップ層へ|社長1on1・役員1on1
トップ専用のAIエージェント環境を構築し、週1回または隔週で伴走します。実際に触っていただき、相談に乗る。この形が最も効果が大きいと考えています。
大手鉄道会社、エンターテインメント企業、自動車関連メーカー、金融機関などで、社長を含む全役員向けの勉強会も実施しています。
環境を作る人へ|基盤構築の伴走
すべてを私たちが作るのではなく、環境構築を担うチームと一緒に立ち上げます。
大手通信系SIer、大手不動産会社などで、情シスを起点にしたAIエージェント開発・基盤構築の1on1を行っています。
業務を作り変える人へ|実行型の人材育成
座学ではなく、実際にエージェントを作る実践的なプログラムです。誰をピックアップするかを決めるところから一緒に考え、育成後の「最初の一転がり」まで伴走します。
大手BPO企業、大手商社、大手鉄道会社、メーカー、飲料メーカー、大手人材サービス、大手信託銀行などで実施しています。
AI変革がうまくいっている企業は、例外なくこの3タイプの人材が少しずつ増えています。
管理職向けの講演から始まり、役員勉強会を経て、管理職自身が実装人材となって自ら企画したエージェントを発表するところまで、2年かけて到達した大手企業もあります。
自社ではどこから着手すべきか、どのタイプの人材が不足しているか。お困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
記事の筆者

株式会社AVILEN
マーケティングチームリーダー/シニアマーケター / マーケター
立命館大学文学部を卒業後、大手地方新聞社、ビジネス系出版社での編集、広告営業職を経てブレインパッドにマーケターとして参画。2020年にDX、データ活用をテーマにしたオウンドメディア『DOORS -BrainPad DX Media-』を編集長/PMとして立ち上げ、グロース。ブランディングとプロモーションを両立したコンテンツマーケティングで成果を上げ、2022年にグループマネジャーに昇進。2025年7月よりAVILENに参画。





