単発研修から継続的成果へ ― 企業のDX人材育成を成功に導く3つのポイントと実践事例

単発研修から継続的成果へ ― 企業のDX人材育成を成功に導く3つのポイントと実践事例

目秦と申します。私は現在、AVILENで人材育成や組織開発を行っている「ビルドアップチーム」のマネージャーを務めております。
私自身は元々、AIや機械学習の研究を専門としており、以前は同社でAI開発チームのマネージャーをしておりました。現在は、人材育成側のマネジメントを担当しております。
開発、育成とこれまで様々なお客様をご支援してきた経験から、事例も含めて色々とご紹介できればと思っております。

さて、DX人材育成の予算は増えているのに、なぜ成果が出ないのでしょうか。
アルー株式会社が実施した調査(※)によると、2024年から2025年にかけて、約半数(47.3%)の企業がDX人材育成やリスキリング関連の予算を増加させたと回答しています。

従業員3,000〜5,000人規模の企業では、65%以上が従業員1人あたり30万円以上の研修予算を確保するなど、多くの企業が人材育成に力を入れ始めている一方で、「増やした予算を効果的に使えていない」という声も少なくありません。

人材開発予算の変化~2024年から2025年にかけての変化~ (研修種類別)
出典:【従業員規模別】大企業の25年度人材開発予算の傾向

本記事では、多くの企業が直面する課題と、それを乗り越えて成果を出すための具体的な方法について解説します。

なぜ人材育成は「単発の研修」で終わってしまうのか

予算を確保し、研修プログラムを導入するなど、形式上は「人材育成」に取り組んでいるにもかかわらず、その成果が上がらない、あるいはかえって従業員のモチベーションを下げてしまう企業には、共通する深刻な課題が存在します。

その中でも特に、以下の3つの要素が複雑に絡み合い、育成の取り組みを空洞化させているケースが散見されます。

多くの企業では、様々な事情から単発で研修を実施し、毎年実施内容の検討にかなりの労力を割き続けている

課題1:戦略がない → 独自の研修体系を構築する

独自の“研修体育成を成功させている企業に共通する最初の重要なポイントは、「独自の研修体系や育成計画を整備している」ことです。
これは、場当たり的に研修を実施するのではなく、企業が目指す最終的な事業のゴールから逆算して、以下の点を明確に定義していることを意味します。

  • どのような人材が必要か: どのようなスキルや能力を持った人材を育成する必要があるのか。
  • どのレベルまで育成するか: その人材をどの程度の専門性やレベルまで引き上げるのか。
  • どのようなステップで育成するか: レベルに応じて、どのような研修や経験を経てステップアップさせるのか。

▼具体的な事例

キリンの「DX道場」の枠組みです。
出典:キリン流DX人材育成の秘訣 – 「キリンDX道場」の挑戦
  • 三菱電機株式会社
    グループ内向けの「DXイノベーションアカデミー」を設立し、必要な人材を細分化して「ブロンズ、シルバー、ゴールド」といった認定制度を導入しています。社員のモチベーションを維持しながら計画的に育成を進めるとともに、社内リソースだけでなく、社外研修や大学との連携も積極的に組み込んでいるのが特徴です。
  • 株式会社資生堂
    アクセンチュア株式会社と「資生堂インタラクティブビューティー」という合弁会社を設立。この合弁会社を通じて、基礎スキルから領域別の専門スキル、さらに高度な専門スキルまでを段階的に習得できる体系的な教育プログラムを整備し、グループ全体のデジタル領域における専門人材の育成に戦略的に取り組んでいます。

このように、成功を収めている企業は、まず自社の事業戦略や現状に合った「人材育成の全体像(ロードマップ)」を描くことから始めています。
私たちAVILENも、上記キリンホールディングスの事例のように、このような戦略的な育成体系の設計・整備から、具体的な研修プログラムの提供まで一貫してご支援しております。

課題2:工数がない → 内製化と外注を適切に組み合わせる

人材育成を効果的に進めるには、研修内容の特性に応じて、内製化(自社での実施)と外注(外部への委託)を適切に組み合わせることが重要です。

全てを外注すると費用対効果が悪くなる一方、全て内製化しようとすると担当者の負担が過大になり、育成体系の維持が難しくなります。

この課題を解決するために、研修内容を以下の3つのパターンに分類し、それぞれの特性に合ったアプローチを選択することが有効です。

内製と外注の比較

①最初から最後まで外注

▼適している内容

  • AIや生成AIなど、技術進歩が激しく、高い専門性が求められる領域。

▼理由

  • 自社でコンテンツを内製化しようとすると、技術の進化が速いために購入・作成したコンテンツがすぐに陳腐化し、継続的なアップデートが必要になります。
  • 高い専門性を持つ外部企業に任せることで、常に最新で質の高い教育を提供でき、内製化にかかる工数やコストを削減できます。

②最初から最後まで内製

▼適している内容

  • 社内に既に知見があり、会社の独自性が強い内容(例:独自の営業手法、社内システムの使用方法など)。

▼理由

  • 外部に委託すると、業務内容に合わせたカスタマイズ費用が高額になりがちです。
  • 社内の知見を活用し内製化することで、費用対効果が高く、現場に即した実践的な研修を実現できます。

③最初は外注し、徐々に内製化

▼適している内容

  • データ活用の基礎知識など、社内に知見はないが内容は比較的普遍的なもの。

▼理由

  • 初期導入の負担を軽減: まずは専門企業から質の高いコンテンツと実施ノウハウを得ることで、立ち上げ時の工数を大幅に削減できます。
  • 将来的なコスト抑制と予算の再配分: 徐々に内製化を進めることで、次年度以降の外注コストを抑えることができ、その分の予算を新しい育成施策やより専門的な外部研修に振り分けることが可能になります。

特に3つ目の「徐々に内製化」を成功させるためには、外注先の選び方が鍵になります。単に研修コンテンツを提供する企業ではなく、将来の内製化を見据えて支援してくれるパートナーを選ぶべきです。

  • 良いパートナーの例
    研修コンテンツの作成意図や設計プロセスを共有し、担当者と一緒に確認しながら進めてくれる企業。
    • 結果: 担当者にナレッジ(知識・ノウハウ)が蓄積され、「なぜこの内容なのか」「どこが重要なのか」を深く理解できます。
  • 避けるべきパートナーの例
    提案時と納品時しか接点がなく、ノウハウの共有がない企業。
    • 結果: 担当者がコンテンツの設計意図を理解できず、翌年以降に内製化しようとしても「どこを削っていいか分からない」「重要なポイントが分からない」といった事態に陥り、結局外注から抜け出せなくなるリスクがあります。

課題3:承認が下りない → 効果の出るアプローチを選択する

研修の成果を示せず、予算の承認に苦労するケースも多く見られます。この課題を乗り越えるには、効果を出すための“アプローチ”を戦略的に選択することが不可欠です。

アプローチ①:まず「業務効率化」から始める

DXやAI活用と聞くと、すぐに「新しい価値の創出」や「イノベーション」といった大きなゴールを掲げがちです。しかし、一足飛びにそこを目指そうとすると失敗しやすく、多くの企業ではその手前の「業務効率化」にまだ改善の余地が残っています。

まずは目先の業務効率化を目標に設定することで、成果が出やすくなります。そして、効率化によって生まれた時間やリソースの“余白”が、新しい価値創出に挑戦するための土壌となるのです。この「余白」は、担当者だけでなく現場の従業員にも生まれるため、組織全体で次のステップに進む機運が高まります。成果を出しながら着実にステップアップしていくこのアプローチが、結果的に承認を得やすくします。

アプローチ②:「深化」と「探索」のバランスを経営層が主導する

イノベーションを推進する上では、「両利きの経営」という考え方が重要になります。これは、既存事業を深掘りする“深化”と、新しい領域に挑戦する“探索”の両方をバランス良く進めるというものです。

しかし、多くの組織では、目に見える成果が出やすい“深化”の取り組みに偏りがちです。これは「成功の罠」と呼ばれ、既存のやり方に固執することで、変化への対応が遅れ、競争力を失う原因となります。

この罠を回避し、“探索”を力強く推進するためには、経営層の強いコミットメントが欠かせません。経済産業省の調査でも、DXが失敗した理由の第1位は「経営層のコミットメント不足」とされています。

企業の人材ごとのDX推進における目指す姿

したがって、DX推進担当者や一般社員向けの研修だけでなく、経営層や管理職を巻き込むための研修やウェビナーを開催し、「なぜ今、変わらなければならないのか」「今のままではダメなんだ」という方向性をトップが明確に示すことが、承認を得て全社的な取り組みを加速させる上で極めて重要です。

まとめ:自社に合った育成プランで、成果に繋がる一歩を

ここまで記載した通り、人材育成の予算を確保しながらも成果を出せずにいる企業は、「戦略」「工数」「承認」という3つの壁に直面しています。

この壁を乗り越えるためには、以下の3つのポイントが重要です。

  • 独自の研修体系を整備する
  • 内製化と外注を賢く使い分ける
  • 効果の出るアプローチ(業務効率化からの着手、経営層の巻き込み)を選択する

単発の研修で終わらせず、継続的に成果を生み出す人材育成を実現するために、まずは自社の現状を分析し、最適な育成プランを設計することから始めてみてはいかがでしょうか。

私たちAVILENでは、こうした課題意識に基づき、企業の状況に合わせて研修を柔軟にカスタマイズしています。例えば、対象者(役員・管理職・推進者)、目的(効率化・イノベーション・プロジェクト推進)、技術分野(データ分析・生成AI)などを組み合わせ、最適な育成プランを設計します。
※AVILENが提供する人材育成支援・研修サービスについては別記事で触れたいと思います。

AVILENでは、貴社の課題に寄り添ったプランニングをご支援しています。ぜひお気軽にご相談ください。

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