AI変革の最前線 #3 山口県の挑戦と学び ― AI人材が地域の未来をつくる

AVILENでは、AIを契機に働き方・学び方・組織の在り方を再定義し、実際に変革を推進している企業・自治体・有識者様に焦点を当てる対談シリーズ『AI変革の最前線』をお届けしています。
本シリーズは、AI導入のノウハウやツール紹介といった「How」を語るものではありません。変革に挑む方々が何を見据え、なぜ意思決定し、組織をどう動かしてきたのか。
その「Why」と「変化のプロセス」に焦点を当てます。
第3回の主役は、山口県です。
人口減少や高齢化といった課題に直面する地方において、AIは単なる効率化の手段にとどまらず、地域の産業や行政のあり方そのものを左右する存在になりつつあります。
山口県では、県内企業や行政を含めた地域全体のAI活用をどのように推進していくかという視点から取り組みを進めています。
その中核となるのが、「AIトランスフォーメーション人材育成事業」です。
本事業は、単なるスキル習得にとどまらず、「AIを使いこなす人材をどう育て、どう地域の成果につなげるか」という問いに向き合う実践的な取り組みです。
「地域としてAIをどう活かすのか」「人材育成をどのように成果創出へ接続するのか」――その問いに、行政として真正面から向き合ってきました。
本記事では、こうした取り組みの裏側にある設計思想と、地域のAI変革を“支援する側”として動く職員の想いに迫ります。
登壇者
- 山口県 総合企画部 デジタル推進局 デジタル政策課 企画班 主査・徳久 剛氏
- 山口県 総合企画部 デジタル推進局 デジタル政策課 企画班 主任主事・園田 直子氏
※所属・肩書は2026年3月時点。
モデレーターは、株式会社AVILEN 執行役員CRO・太田 拓が務めます。

写真右から山口県・徳久氏、園田氏、AVILEN・太田
目次
監修者

株式会社AVILEN
執行役員 CRO / コンサルタント
東京大学大学院修了。BCGプロジェクトリーダー、ITベンチャー執行役員を経てAVILENに入社。 BCGでは製造業・通信・金融・小売・製薬等の業界でトランスフォーメーション、ターンアラウンド等々のテーマで戦略策定から実行支援に従事。ITベンチャーでは基幹事業の責任者として5部署を統括し、事業グロースに従事。 AVILEN入社後はビルドアップ事業の責任者や自らも担当をもちながら大企業向けアカウントをリード。
人口減少、高齢化…地方の課題解決にこそAIが必要
株式会社AVILEN 執行役員CRO・太田拓(以下、AVILEN・太田): 本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、まず山口県の産業構造や現状の課題について、改めてお伺いできますでしょうか。
山口県 総合企画部 デジタル推進局 デジタル政策課 企画班 主査・徳久 剛氏(以下、山口県・徳久氏): 山口県の人口は約130万人で、地理的にも首都圏から離れています。福岡と広島に挟まれてはいますが、やはり遠方というイメージは否めません。県の性格としては、瀬戸内コンビナート地帯を中核とした工業圏であり、もう一つの柱として観光があります。
大きな特徴として、県内に大都市が存在しないことが挙げられます。一番大きい下関市でも人口は23万人程度です。そのため、高齢化や人口減少といった課題がより顕著に現れており、人材の県外流出も深刻です。流出した人材をいかに県内で循環させていくかが大きなテーマになっています。
こうした状況下で、県全体の活性化が求められています。その解決策の一つとして、AIの進展は大きな可能性を秘めています。人がいなくても生産性を高められるAIの力を活用するため、人材育成の中にAIを取り込むことに力を入れているというのが現在の背景です。
AVILEN・太田: そうした背景から、県として「やまぐちデジタル改革基本方針」を策定し、デジタル推進局が新設されたのですね。
山口県・徳久氏: はい。デジタル改革基本方針は令和3年(2021年)度からスタートしました。ちょうどコロナ禍でデジタルに非常にフォーカスが当たっていた時期で、当時はオンライン会議すらまだ進んでいなかった状態から、デジタルに関する考え方や取り組み方針を皆で深めていく必要がありました。
この改革において、3つの柱を掲げています。
- 「やまぐちDX」の創出
県内DX推進拠点Y-BASEを中心に、民間や行政と連携し地域課題の解決を図る。
DX推進コンサルティングやイベント開催を通じ、先端技術の理解促進とデジタル技術の利活用を推進。 - 「デジタル・ガバメントやまぐち」の構築
行政事務全般のデジタル化の推進を行っている。
行政手続きのオンライン化・ワンストップ化・ワンスオンリー化など、誰もが手軽に安心してデジタルサービスを利用できるよう、行政事務全般のデジタル化を推進している。 - 「デジタル・エリアやまぐち」の形成
デジタルインフラ基盤の強化、マイナンバーカードの普及と利活用拡大、デジタル人材育成などを通じて、県民がデジタル化による豊かさや活力を実感できる地域づくりを目指す。
【参考】『やまぐちデジタル改革基本方針の概要』
私が県庁に入ったのも、デジタル推進局ができたこのタイミングでした。
AVILEN・太田: 徳久さんは前職が山口県内の金融機関で、民間から行政へと移られていますよね。その中で感じるギャップや、行政組織でDXやAIを推進する意義はどのような点にあるとお考えですか。
山口県・徳久氏: 民間企業はターゲットを絞り、いかに収益を積み上げるかを前提にサービスを構築します。一方、行政は「全県民」「誰一人取り残さない」という視点が強く、スタート地点が全く逆だと感じます。
ただ、それを具体的な施策に落とし込む上では、データ活用や民間の考え方が非常に役立ちます。両者の視点はどちらも重要で、これらをうまくインストールできれば、行政もより良いサービスを作っていけると考えています。

AVILEN・太田: 山口県の取り組みで特徴的なのが、県庁と「一般財団法人山口県デジタル技術振興財団」が密接に連携されている点です。
後ほど触れる、今回のAIトランスフォーメーション人材育成事業も財団が主体となって進められていますが、この役割分担にはどのような意図があるのでしょうか。
【参考】『山口県デジタル技術振興財団の紹介』
山口県・徳久氏: 県と財団は非常に密接に連携していますが、県は県としての立場、財団は市町を含めたもう少し広い立場で関わることができます。
元々の設立時に各市町からの出資も受けながら財団が立ち上がっていますので、オープンデータのカタログサイトを設けて共同利用するなど、県だけのためではなく市町のためにも柔軟に運用ができるという点が大きいですね。
AVILEN・太田: デジタル、AIといった変化の速い分野に取り組む上で、合理的な仕組みだと思うのですが、こうしたアジャイルなカルチャーは、デジタル推進局ができた当初からあったのでしょうか。
山口県・徳久氏: どうなんでしょう。元々はそんなになかったと思います。デジタル推進局という新しい組織が立ち上がり、外部から専門家(CIO補佐官)に入っていただく中で、「とにかくトライアルすることが大事」「失敗をいかにするか」といった助言をいただき、それを実践してみようと。
ゼロから作る組織だったからこそ、しがらみがなく新しいことに挑戦できたことが大きかったと思います。
「テクニックを学ぶだけでは意味がない」—AIトランスフォーメーション人材育成事業の出発点
AVILEN・太田: ここからは、「AIトランスフォーメーション人材育成事業」についてお伺いします。AI、特に生成AIに特化した人材育成プログラムは全国的に見ても珍しいと思いますが、どのような問題意識からこの事業は始まったのでしょうか。
山口県・徳久氏: 元々はEBPM(Evidence-Based Policy Making)という、データに基づいて最適な施策立案や改善をするための研修を実施していたのです。
しかし、現状分析から振り返りの仕組みづくりまで、全てを一度にやろうとすると非常にハードルが高かった。そこで次はデータの「可視化」に絞って研修を行い、ある程度形になってきたところで、生成AIという大きな転換点が訪れました。
これまでの考え方が根本から変わる可能性を感じ、これを身につけなければ「一つひとつ積み上げてきたものが無駄になるほどの差がつく」のではないかという強い危機感と、CIO補佐官からの「AIを❝使いこなす❞人材が本当に重要」という助言をいただいたことも、この事業の出発点です。
AVILEN・太田: 民間の方々へのヒアリングを通じてわかったAI活用・推進の課題はありましたか?
山口県・徳久氏: 「なかなかついていけない」ということだと思います。あまりにもAIの進化や変化が早くて、キャッチアップするだけでもままならない中で、どう使いこなすかというところに意識がいかない。
多くの方が「どのモデルを使えばいいか」というツール論に陥りがちですが、本当に大切なのは「何をやりたいか」です。その目的さえあれば、ツールはどれでもいいはず。そのため研修では、まず課題を設定し、それを解決する手段としてAIをどう使うかという思考のプロセスやマインドセットを重視しようと、当時検討しました。
AVILEN・太田: 事業の立ち上げにあたって苦労されたことはありますか。
山口県・徳久氏: やはり人材の「募集」ですね。
これは、なぜその人材が必要なのか、という根本的な理由を組織全体で深く理解してもらわないと、県庁内部の各部署はもちろんのこと、行政機関や民間企業も「このプロジェクトに協力して人を送り出そう」というモチベーションが生まれません。
「なぜそれを今やっているのか、そしてこれを実行することで、将来的にどのようなメリットや変化がもたらされるのか」という、まだ明確な答えや成功事例がない段階で、自ら深く考え、仮説を立てる必要がありました。
その仮説と必要性をひたすら繰り返し丁寧に説明し、関係者全員の理解と共感を得て、実際に大切な職員や社員を送り出してもらうという、最初の段階で共感を得る作業に最も苦労しました。
AVILEN・太田: この事業では、直近の2年連続でAVILENを事業パートナーとして選んでいただいています。
公募のためお話しにくい点もあるかと思いますが、改めて選定の理由や評価いただいたポイントがあればお聞かせください。
山口県・徳久氏: 総合的な判断ですが最も大きな理由は、提案内容の質の高さにあります。
私たちの事業は、発注時点で明確な仕様が定まっていない「手探りの状態」から始まることが多く、いただく提案の具体的な内容や方向性には、どうしても大きな幅が出てしまいます。
そうした多様な提案の中で、審査員が最も事業の方向性や課題解決に結びつくと直感的に理解し、納得できた提案をいただいたことが、選定の決め手となったのではないでしょうか。
「この課題に対して、こういう斬新なアプローチや具体的な施策を実行すれば、より良い成果が得られるのではないか」という、本質的な課題解決に向けた提案力、洞察力の差も大きなポイントの一つだと思います。
山口県 総合企画部 デジタル推進局 デジタル政策課 企画班 主任主事・園田 直子氏(以下、山口県・園田氏): 生成AIを使いこなすという目的達成に向けた具体的な方法、そして分かりやすく横展開できる成果物ができあがるかという視点で、より良く事業を推進していけるような設計を具体的に提案してくださった点がよかったと思います。
山口県・徳久氏: 私は、あまり行政の言うことの範囲の中だけで考えていただきたくないと思っています。
「もっとこうしたほうがいい」という、こちらの要件が足りていない部分をご指摘いただきたい。知見や経験をお持ちのところから、より良くするためのご提案をいただけると非常にありがたいのです。
多くの事業者は、こちらの仕様の中でどうやるかという話になりがちですが、まるっきり変わることはいけないにせよ、その中でより良くするためのご提案はまだまだあるのではないかと。
柔軟性があり、議論をともにできるイメージが、AVILENにはありましたね。
研修内容のブラッシュアップや、成果と課題

【プレスリリース】AVILEN、山口県の「AIトランスフォーメーション人材育成事業」を2年連続で支援~生成AI時代に対応した実践的スキルが身につく人材育成プログラムを提供~ より
AVILEN・太田: 「AIトランスフォーメーション人材育成事業」は、単発の研修というよりも、設計そのものを一緒にアップデートしてきたプロジェクトだったと感じています。
私たちとしても、AI人材育成や生成AI活用支援の知見を活かし、プログラム設計や講師派遣など、事業運営全般にわたり本事業の実施を支援してきましたが、最初から「これが正解」という形があったわけではなく、かなり試行錯誤し続けました。
山口県・園田氏: AVILENとの初年度はまず、生成AIに対する理解を広げることを重視しました。当時は「何ができるのか分からない」という状態だったため、リテラシーを揃えることが必要だと考えていました。
ただ、実施してみて見えてきたのは、「理解しただけでは現場で使われない」という課題でした。
AVILEN・太田: そこは我々としても強く感じていたポイントです。知識として理解することと、実際に業務で使えることの間には、大きなギャップがあります。なので2年目以降は、「どうすれば現場で使われるか」に設計の重心を移しました。
山口県・園田氏: そうですね。具体的には、インプット中心の構成から、アウトプットと実務接続を重視した構成にシフトしています。
まず事前研修として、DXリテラシーや生成AI活用に関するeラーニングで基礎知識をインプットし、受講前後でアセスメントも実施しています。そのうえで、集合研修では社会課題の発見から仮説立て、アイデア創出、企画化までを段階的に進めていきます。
さらに、各チームに対してはグループ面談の形で伴走支援を行い、課題の深掘りや視点の整理をサポートしています。ここでの支援がないと、途中で止まってしまうケースも多いため、かなり重要な位置づけです。
AVILEN・太田: 確かに、演習だけだと途中で思考が止まってしまうことも多いので、そこをどう支えるかは設計上かなり重要だと捉えていました。
山口県・園田氏: 最終的にはチーム単位で課題解決型のAI企画を発表する場を設けています。
単なる理解ではなく、「実際にどう使うか」を言語化し、アウトプットまでやり切ることを重視しています。
山口県・徳久氏: 加えて、講演会や広報展開も含めて、外部の知見を取り入れたり、成果を県内外に発信したりする仕組みも組み込まれています。
単発の研修で終わらせず、ロールモデルを生み出し、横展開していくことも意識しましたね。
AVILEN・太田: 研修プログラムを実施されたご感想、受講者の反応、成果や手応えについてお聞かせください。
山口県・園田氏: 目標としていたデジタル人材の育成人数が着実に蓄積されていることに加え、受講された皆さんのマインドが変わってきたという手応えを感じています。
研修をきっかけに、自分なりにAIを試してみる、興味を持って自走するといった動きが生まれています。
山口県・徳久氏: 官民混在の研修を通じて、参加者それぞれの視野が広がり、新たなネットワークが生まれたことも大きな成果です。
また、研修だけで終わらせない仕組み作りとして、「デジテック for YAMAGUCHIの会員」のコミュニティを定期的に集めて情報交換や勉強会を継続的に開催しています。
そこでは、「生成AIでこんなことやってみました」という発表や、新しいサービスの紹介をしたりもしている。研修だけで終わらせない工夫はできつつあると思いますね。
山口県・園田氏: 研修で立てた企画を実際に所属部署の業務改善に活用された方がいました。ホームページのダッシュボード更新が属人化していたという課題に対し、自分が異動した後もきちんと引き継がれる仕組みを企画し、実践されたのです。研修で学んだことを、実際の業務で活用し、成果を出していただけたのは本当に嬉しかったですね。

AVILEN・太田: 素晴らしいですね。余談ですが最近、弊社のエンジニアがお客様を集めて、「Claude Code」のカジュアルな勉強会を開催したことがあります。皆さん、非常に熱心に使いこなして帰られるのです。やはり、「自分で動かしてみると、ここまでできるんだ!」という驚きと感動が、利用者を強く惹きつけるのだと思います。
山口県・徳久氏: 研修の効果を広げるには、参加者の「熱量」が何より重要です。本当にやりたいと思っている人をどう集めるか。そのためには、画一的な募集ではなく、「あなたの部署のこの課題、この研修で解決できます」といった、一人ひとりのニーズに寄り添ったアプローチが必要だと感じています。
山口県・園田氏: 募集の段階でしっかりと基準やプロセスを設けていれば、研修やプロジェクト終了後に、その方がどの程度活躍しているか(効果測定)を追跡し、把握できるようになると思います。
AVILEN・太田: ちなみに、この事業に携わる中で大事にしている想いは何ですか?
山口県・徳久氏: 「同じことをやっていてはいけない」ということに尽きます。
前年度と同じ内容でいいなら、わざわざAVILENのような外部に委託する必要はなく、前年度の担当者が講師を務めればいい。
新しいこと、その時々で最先端の知見を持ってきていただけるような事業の組み立て方をすべきだと考えています。
そのためには、事業を推進する職員自身が「どうあるべきか」「どうすべきか」を常に考え抜く必要があります。ベンチマークを置くとしたら、「前年と比べてどれだけ新しいものを取り入れられたか」という点になるでしょう。
AVILEN・太田: 常に新しい刺激を取り入れつつも、軸がぶれてはいけないと思います。そのバランスはどのように取られているのでしょうか。
山口県・徳久氏: 事業の根幹には、冒頭お話ししたEBPM、データを元に施策を改善していくためのパーツを分けて考えています。
仮説立案力、現状分析力、そういったものをまんべんなく提供して、理想的にはそれが全部そろってサイクルが回る。人材育成としてはパーツに分けて提供し、それが組み合わさると必要な機能が満たされるという設計にしていくべきだと思いますね。
山口県が描く、地域AI変革の次のフェーズ
AVILEN・太田: デジタル推進局が発足してまもなく6年目になります。当時と今を比べて、地域のデジタル活用はどのように変化したと感じますか。
山口県・徳久氏: 「Y-BASE」(2021年に開所したDX推進拠点)では、さまざまな行政や民間企業がお越しになりますが、当初は「見学」だったんです。「DXって何?AIって何?」というような。
そこから今は、「業務にどうやって実装するか」という関心に進んできていると感じます。
反面、技術の進歩のスピードに、現場の業務理解や適用力が追いついていないという新たな課題も生まれています。
そこを人材育成やDXコンサルでサポートしていかないと、せっかく波が来ているのに乗り切れないという、機会損失につながります。
AVILEN・太田: そうした新たな課題感もある中で、今後どのようなAI活用の取り組みを広げていきたいですか。
山口県・徳久氏: 基本的にはどんな分野にもAIが溶け込んでいくことになると思いますので、単一の利用から業務全体のどこに・どうAIを活用していくかという業務設計そのものに意識を向けていく必要があります。
対話型ではなく、AIエージェントのように裏で勝手にやってくれるというところにスライドしていく必要がある。
そういった支援体制や人材育成、できれば先端的な実証にも取り組みながら、地域の事業者の皆さんに「ここまでできるんだ」ということをお示しして、Y-BASEに相談に来ていただき、横展開していくという流れを作りたいですね。
AVILEN・太田: 地元の方々にY-BASEでデジタル化の機会を幅広く提供できるのは本当にいいことですよね。デジタルな世の中とはいえ、やはり直接会う場があった方が良いというか、何かを動かすのは結局「人」と「人」ですから。
山口県・徳久氏: デジタル化が進むならオンラインで十分ではないかという意見もきっとあったと思うんです。リアルの拠点を設けることにはコストはかかりますが、来て体験していただくという点で、大きな価値があると考えています。
“やる人”と“やらない人”の「差」をどう埋めるか
AVILEN・太田: これからAI変革に取り組む企業や自治体にとって、最も重要なことは何だと思われますか。
山口県・徳久氏: 「推進力」と「人間力」があると考えています。
スキルやテクニックの習得もさることながら、変革を推し進める「推進力」です。それは教科書的な知識だけでは身につきません。演習やグループワークなどを通じて、『一度でも自分でやった』という経験を積んでもらうことが何より大切だと考えています。
さらに言えば、学んだことを他者に『教える』機会を設けるのが、知識を定着させる上で最も効果的です。
アウトプットすることで本質的な理解が促されます。研修に参加された方々が、それぞれの組織に戻ってインフルエンサーとなり、変革の輪を広げてくれる。そんな循環を生み出すことが理想です。
AVILEN・太田: 「推進力」については徳久さんがおっしゃるように、やはり「自分で動かす」という経験が全てだと私も思います。
知識として知っているのと、実際に手を動かして失敗も含めたプロセスを経験するのとでは、変革に対する当事者意識と、組織を巻き込むエネルギーが全く違ってきます。
山口県・徳久氏: 次に「人間力」です。
生成AIが普及し、専門的な知識(ドメイン知識)ですらAIで補完できるようになると、テクニックそのものの価値は相対的に下がっていきます。そこで問われるのが、「人間力」です。
物事を整理し、企画を立て、相手に納得してもらえるように説明する。あるいは、AIが生成した文章を読んで、その行間や文脈を読み取り、より良い表現を指示する。そうした力は、AIには代替できません。
AIによって効率化が進む一方で、こうした人間としての根源的な力をどう育んでいくのか。それが、これからの大きなテーマになると感じています。最終的には、AIを使いこなす人間力によって「稼ぐ力」や「付加価値」を生み出せる人材を、この山口県からいかに育てられるかを目指したいです。
AVILEN・太田: AIの活用は、今後、地域の働き方をどのように変えていくと期待されますか。
山口県・徳久氏: AIを使いこなせる人とそうでない人の差は、今後ますます広がっていくでしょう。
自発的に学ぶ人はどんどん先に進みますが、一方で、大多数を占めるであろう『そうでない人』たちをどうサポートしていくかが行政、ひいては地域全体の大きな課題です。
AIに不慣れな方々が無理に学ぶのではなく、意識せずともその恩恵を受けられる環境を整えることが重要です。そのためには、AIを使いこなせる人たちがハブとなり、複雑な業務を分解して、誰もが使えるサービスや仕組みに落とし込んでいく。スキルレベルの異なる人々が一体となって進んでいく、そんな体制づくりが求められます。
一部の尖った人材を育成するだけで満足せず、得られた知見をいかに多くの人々へ横展開できるか。
その仕組みづくりこそが、私たち行政の役割ですから。

最後に
AIを使いこなせる人と、そうでない人。その差は今後、確実に広がっていきます。
しかし本質的な課題は、その「差」そのものではありません。
重要なのは、その差を前提としたうえで、組織や地域としていかに活用していくかという設計です。
山口県の取り組みは、特定のスキルを持つ人材を育てることにとどまらず、その知見をいかに横展開し、地域全体の力に変えていくかという問いに向き合った実践でもあります。
AIは、導入すれば価値を生むものではありません。人がどう使い、どう広げるかによって初めて意味を持ちます。
その意味で、「AIトランスフォーメーション人材育成事業」は単なる研修ではなく、AI時代における人材・組織・地域のあり方を再設計する試みだと言えるでしょう。
記事の筆者

株式会社AVILEN
マーケティングチームリーダー/シニアマーケター / マーケター
立命館大学文学部を卒業後、大手地方新聞社、ビジネス系出版社での編集、広告営業職を経てブレインパッドにマーケターとして参画。2020年にDX、データ活用をテーマにしたオウンドメディア『DOORS -BrainPad DX Media-』を編集長/PMとして立ち上げ、グロース。ブランディングとプロモーションを両立したコンテンツマーケティングで成果を上げ、2022年にグループマネジャーに昇進。2025年7月よりAVILENに参画。




