【後編】AIが変える世界とこれからの人のあり方 ~ビジネスで成果を出すための現実解~

前編では、AIの仕組みと限界について整理してきました。
AIは魔法ではなく、学習データに基づいて「もっともらしい予測」を返す存在であること。
そして、その性質ゆえに、性能スコアの高さと実務での使いやすさは必ずしも一致しないという現実です。
ここから後編では視点を変えます。
「AIは何者か」ではなく、「AIはビジネスをどう変えてきたのか、そしてこれから何が変わるのか」。技術の話を、ビジネス価値提供の話へと接続していきます。
目次
AIによるビジネスの変遷
ビジネスモデルはどう変わってきたのか
AIの話をすると、「すべてのビジネスモデルがひっくり返る」という極端な議論になりがちですが、実際に現場を見ていると、AIがもたらす変化はそこまで単純ではありません。
まず押さえておきたいのは、AIによる事業進化には、大きく2つのタイプがあるという点です。
①事業は変わらないが、オペレーションが進化するケース
多くの企業で、まず起きるのはこちらです。
提供している価値そのものは変わらないが、その価値を届けるまでのプロセスが、AIによって一気に効率化されていく。
飲食、建設、介護、製造、バックオフィス業務。
こうした領域では、「何を提供しているか」よりも、「どう回しているか」が変わります。
- 定型業務が自動化される
- 判断補助が入ることで、人の意思決定が速くなる
- 属人化していた作業が、再現可能になる
これはDXの延長線上にある進化で、事業モデルの根幹はそのままに、生産性と再現性が跳ね上がるタイプの変化です。
日本企業の多くは、まずここをやり切るだけでも相当な価値があります。
「AI=新規事業」ではなく、AI=業務前提の書き換えは現実的で、かつ一番インパクトの大きい入り口です。
②一部の産業では、事業モデルそのものが変わる
一方で、明確に「モデルが変わる」領域も存在します。
それが、AIが「ツール」ではなく、「結果」を直接生み出せる産業です。
これまでのデジタルサービスは、基本的に「ツール」を提供してきました。
たとえばEC。Amazonは膨大な商品と検索・レコメンド機能を用意しましたが、最終的に「何を買うか」を決めていたのは人間です。
- 探す
- 比べる
- 悩む
- 決める
この意思決定プロセスは、あくまで人の側に残っていました。
AIエージェントが前提になると、この構造が変わります。
顧客は、AIに「目的」を伝えるだけ。AIが選択肢を調査し、吟味し、「この結果が最適です」と提示する。
- どれを選ぶか
- どの順で進めるか
- 何を捨てるか
これらの判断が、AI側に移っていく。
重要なのは、80点でもいいから「結果」を返すという点です。
完璧な比較表ではなく、完璧な説明でもなく、 「これが結論です」と提示される体験そのものが価値になる。
この世界では、顧客に最も近い存在が価値を持ちます。
もし購買の意思決定がAIエージェント側で完結するなら、Amazonのような巨大プラットフォームですら、単なる裏側の供給者になる可能性がある。
極端に言えば、
- 顧客が覚えるのは「AIの名前」
- 実際に買う場所は、意識されなくなる
- それぞれに違う体験が提供される(パーソナライズされる)
こうした構造変化が、一部の産業では現実的に起こり得ます。
- 教育
生徒全員にAI先生がつき、AI先生は生徒一人ひとりの苦手・得意を本人以上に把握し、それぞれの進捗に合わせて指導するようになる。
学習体験は完全にパーソナライズされ、先生の仕事は、より重要な動機づけや、生徒一人ひとりと向き合うことへとシフトする。 - クリエイティブ
ツールを自ら操作するのではなく、どのような結果が欲しいかという意図や目的を明確に伝えるだけで、AIが最適なアウトプットを生成してくれるようになる。
これまでの作業の中心であった「手を動かしてものを作る」というプロセスはAIが担うため、人間の価値は「何を作るべきか」「どのような方向性で進めるべきか」といった判断や意思決定を行う「決める」行為へとシフトしていく。 - ヘルスケア
GeminiやChatGPTといったAIは、正確かつ広範な知識で病気の相談・診断に応じます。
未来では、誰もが医者レベルのAIに相談でき、医者は最終承認のみ、薬はすぐ届くようになる。
また、Apple WatchやOura Ringなどのデバイスで体の状態がリアルタイムで把握できるようになり、予防医療へと進化する可能性がある。
ここでは、Howの工夫ではなく、Whatの設計そのものが競争力になります。
二極化するAI時代の事業進化
AIがもたらす変化は、すべてを一様に壊すわけではありません。
- 多くの事業では、オペレーションが進化する
- 一部の事業では、モデルそのものが書き換わる
この二極化が、同時に進んでいます。

だからこそ重要なのは、 「自社はどちらの変化に向き合っているのか」を見誤らないことです。
モデル変革を狙うべきでない企業が、無理に夢を見る必要はない一方で、モデルが変わる産業にいるのに、効率化で満足するのは危険です。
AI時代の本質は、「技術」ではなく、どこで価値が決まり、誰が意思決定を握るのかを見極めることにあります。
AI変革を阻む3つの壁と、その乗り越え方
ここまで見てきたように、AI時代の本質は技術そのものではなく、価値と意思決定の構造がどう変わるかにあります。
ただし、この構造を理解しただけで、AI変革が自然に進むわけではありません。
実際には、デモやPoCでは期待が高まる一方で、業務や組織の中核にまでAIが入り込めていない企業がほとんどです。
問題はAIの性能ではなく、AIを前提とした組織や業務の形が整っていないことにあります。
AIは「入れれば効く」技術ではなく、前提が揃って初めて価値を出し続ける技術だからです。
では、企業はどこでつまずいているのか。
その課題は、多くの場合、次の3つに集約されます
- データ基盤(Data Foundation)
データが分断され、価値に変えられていない - 組織(Organization)
推進部門と事業部門の溝が埋まらない - オペレーション(Operations)
AIの不確実性を管理できない

これらは独立した問題ではなく、互いに密接に結びついています。
AI変革を成立させるには、この3本柱すべてをどう乗り越えるかが極めて重要です
壁① データ基盤:データ基盤なきAIは、力を発揮できない
AIは「賢いソフトウェア」ですが、データとつながっていなければ自動化できることはごくわずかです。
多くの企業では、次のような状態が起きています。
- 営業情報、技術情報、顧客サポート情報がそれぞれ別のシステムに散在している
- 顧客名が「株式会社A」「A社」など表記ゆれしており、同一顧客として認識できない
- データが整理されておらず、AIが「どの情報が重要か」を判断できない
この状態でAIに 「過去の類似案件や関連情報をまとめて、提案のたたき台を作って」と指示しても、AIは本来の性能を発揮できません。
AIが最高のパフォーマンスを発揮するには、グループ内のデータを横断的かつ正確に理解できる“AIのためのデータ基盤”が不可欠です。
データを「資産」に変えるための3つの要件
データ基盤構築のポイントは、次の3つに整理できます。
- 仮説(Hypothesis)
「このデータを、何の価値に変えるのか」という仮説から始める - 統合(Integration)
マスターIDを統一し、データを紐づける - 柔軟性(Flexibility)
必要なデータを、いつでも引き出せる基盤を構築する
全社一斉に完璧を目指す必要はありません。
まずは領域を区切り、価値創出に直結するところから実現することが重要です。
データ爆発と「2つのロックイン」リスク
生成AIの登場により、テーブルデータだけでなく、文章・画像・動画といった非構造データが一気に活用対象になりました。
その結果、データ量はこれまでの数十倍に膨れ上がっています。
ここで注意すべきなのが、現状維持が招く2つのロックインです。
- コストのロックイン
データ量の増加に比例して、利用コストが青天井になるリスク - 事業のロックイン
データがSaaSに閉じられ、自由な活用やシステム変更が困難になるリスク

これに対する新しい考え方が、「処理はSaaS、資産は自社へ」という構造です。
処理は各種SaaSを活用しつつ、データそのものは自社のデータウェアハウスに集約し、将来のAI活用に耐えうる“資産”として保持していくことが重要になります。
壁② 組織:重要なのは「AIプロセス」の設計
次に立ちはだかるのが、組織の壁です。
よくある誤解があります。
「AIを使いこなすには、社員全員がAIに詳しくなければならない」という考え方です。
私は、これは現実的でもなければ、正解でもないと思っています。重要なのは、AIが組み込まれた業務プロセスを先に設計することです。
※ただし、AIを効果的に活用するためには、AIリテラシーを身につけていることが大前提となります。
一度、AI前提でうまく設計されたプロセスができてしまえば、組織は自然とそのプロセスに沿って動くようになります。
現場の一人ひとりが高度なAI知識を持っていなくても、結果としてAIの恩恵を受けられる状態をつくることは十分可能です。
AI変革の核心は、「人を変えること」ではなく、人が動かざるを得ない“仕組み”をつくることにあります。
CoE主導だけでは、変革は広がらない
これまで多くの企業では、DX推進部門やCoE組織、情シス部門が中心となってAIやデータ活用を進めてきました。
このやり方自体が間違っているわけではありません。
技術理解やリソースの制約を考えれば、自然な進め方でもありました。
ただ、この構造には明確な限界があります。
CoEがどれだけ優れたPoCを作っても、それが事業部門の“日常業務”にまで落ちていかなければ、変革は一部で止まってしまいます。
AIが本当に価値を生むのは、事業の現場で、日々の意思決定やオペレーションに使われたときです。
これからは、CoEだけが変革を担う構造から、事業部門が責任を持つ構造へ意識的に転換していく必要があります。
これから求められるのは「事業部内の推進者」
今後のAI活用では、各事業部の中で、データやテクノロジーを使って自ら改善・変革を進められる人材の存在が決定的に重要になります。
ここで言う人材に求められるのは、
- 既存のやり方に固執せず、ゼロベースで「あるべき姿」を描ける
- 技術を理解し、それを事業課題と結びつけて考えられる
- 部門の壁を越えて、関係者を巻き込み、変革を前に進められる
こうした力を持つ人です。
現実には、このような人材は往々にして既存事業の中核を担う「エース」であり、数が限られているのも事実です。
それでも、この人たちが動けるプロセスと役割を用意できるかどうかが、AI変革の成否を大きく左右します。
CoEと事業部の役割は「対立」ではなく「分業」へ
私が理想だと考えている姿は、CoEが消えることでも、事業部に丸投げすることでもありません。
これからの役割分担は、次のような形です。
- 事業部門:
自部門の業務を起点に、データ・AIを使った改善や変革を実行する - CoE・情シス部門:
各部門で生まれた成功事例を整理し、横展開する
全社視点での基盤整備やガバナンスを担う
つまり、変革は現場で同時多発的に起き、CoEはそれを加速させる存在になるという構造です。

AIが発展しても、変革の企画やプロセス設計が重要であることは変わりません。
むしろ、AI時代だからこそ、「誰が」「どの責任で」「どこを変えるのか」を組織として明確にする必要があります。
壁③ オペレーション:AIに「どう任せるか」
AI活用で最後にぶつかるのはオペレーションの壁です。
- 「この業務をAIに任せて大丈夫なのか」
- 「ミスが起きたらどうするのか」
- 「本当に現場で使えるのか」
こうした不安が先に立ち、AIはPoC止まり、あるいは“試して終わり”の存在になってしまう。
しかし問題の本質は、技術の未熟さではありません。AIをどういう存在として扱っているか、その認識のズレにあります。
多くの企業が陥ってきたAI活用の失敗
これまで多くの企業は、AIを「苦手な問い」にそのまま投げてきました。
曖昧で、長く連続し、途中で判断が揺らぐ仕事。
本来、人間でも難しい仕事を、AIに一気に任せようとしてきたのです。
しかし、AIは本質的に確率的な存在です。
1回の実行で完璧な結果を出すことが求められる仕事、あるいは失敗のコストが極めて高い仕事は、AIに向いていません。
ここを誤ると、 「AIは使えない」「結局、人がやった方が早い」という結論に辿り着いてしまいます。
「1回の正解」より「1000回の平均」が価値になる仕事
AIが得意なのは、「一発で正解を出すこと」ではありません。
むしろ、大量の試行を高速に回し、その平均や傾向から最適解に近づくことです。
たとえば、
- 要約を1回で完成させるのではなく、複数案を出して共通点を抽出する
- 文章を一度で仕上げるのではなく、改善と評価を繰り返して収束させる
- 分類・タグ付け・優先順位付けを、統計的に安定させる
- A/Bテストのように、数を出して勝ち筋を見つける
こうした仕事では、「100点を一度出す人間」よりも、「80点を1000回出せるAI」の方が、結果として価値を生みます。
ビジネスの中で、正解の定義そのものが変わりつつあるということです。
それでも精度が必要な仕事は、どうするのか
では、どうしても精度が求められる仕事は、AIに任せられないのでしょうか。
答えはシンプルです。
「そのままでは任せられないが、設計次第で任せられる」。
人間が正確な直線を引くとき、定規を使うように、AIにも「定規」や「分度器」にあたるものを持たせればいい。
- 計算はPythonに任せる
- 正解データはDBから直接引く
- ルールはツール側に持たせる
AIが自由に推測する領域を減らし、確定させるべき部分は外部ツールで縛る。
これだけで、AIの精度は実務レベルに引き上げられます。
※この「AIは一発の正解を出すものではない」という視点については、深津貴之さんが執筆された記事「生成AIの『苦手な仕事』と『正しい任せ方』」
(https://note.com/fladdict/n/na45a57c572c8 )の内容に強く示唆を受けています。
AIは「新入社員」と同じように任せる
ここまでの話を踏まえると、AIの扱い方は極めて人間的です。
新入社員に、いきなり重要な判断を任せることはありません。
最初は成果物をレビューし、問題がなければ徐々に任せる範囲を広げていく。
AIも同じです。
「全部AIに任せるか」「一切任せないか」という二択ではない。
不安がある仕事はレビューする。信頼できる仕事は任せる。
その線引きを、業務ごとに行うことが重要です。
そのためには、業務を丸ごとではなく、分解して考える必要があります。
特に重要なのは、「判断」と「作業」を切り分けることです。

判断基準は「その失敗は致命的か?」
AIに任せるかどうかを決める基準は、実は一つしかありません。
その失敗は、取り返しがつかないか。
- 後から修正できる
- 影響が限定的
- コストが致命的でない
- 会社のカルチャーに反しない
こうした失敗であれば、AIに任せられます。
一方で、信用や契約、法的責任に直結する失敗が想定される仕事は、必ず人が関与すべきです。
さらに、任せ方は設計でコントロールできます。
AIに自由に書かせるのではなく、テンプレートや入力項目を固定する。
これだけでも、リスクは受容可能なレベルまで下がります。
結論:AI活用の差は「任せ方の設計」で決まる
結論は、驚くほどシンプルです。
- 失敗が致命的でない仕事は、AIに任せて自動化する
- 失敗が致命的になり得る仕事は、AIが下書きを作り、人が確認する
AI時代に必要なのは、技術理解ではありません。
任せる範囲を決める力と、リスクを計算する力です。
優れたマネージャーは、そのまま優れたAIの使い手になれます。
AI活用の差は、モデル性能の差ではなく、オペレーションを設計できるかどうかの差なのです。
AI時代に、人間に求められる役割とは
AIが人間より何百万倍も賢くなる時代に、私たちには一体何が求められるのでしょうか。
AIは、膨大なデータから最も確率の高い、平均的な答えを導き出すのが得意です。
しかし、それに依存しすぎると、誰もが納得するけれど誰も感動しない「80点」の世界に収束してしまいます。
イノベーションの源泉となる「外れ値」や「ノイズ」は、確率の低いものとして切り捨てられてしまうからです。
楽をして得た答えは、自分の血肉にはなりません。
だからこそ、AIの完璧に見えるアウトプットに対して、「何かが違う」「綺麗すぎる」と感じるその「違和感」こそが、これからの時代における人間の才能なのだと、私は思います。
AIは答えを教えてくれる先生ではなく、私たちの思考を映し出す「鏡」です。
壁打ち相手として使い倒し、最後のアウトプットに魂を込めるのは、人間の特権です。
そのためには、ネット上の二次情報ではなく、自らの五感で感じた「一次情報」や「身体性」が、何よりも重要になってきます。
『小林秀雄全作品 第21集 美を求める心』(新潮社)の中に、印象的な部分があります。
例えば、諸君が野原を歩いていて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。見ると、それは菫の花だと解る。何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのを止めるでしょう。(中略)それほど、黙って物を見るという事は難しいことです。菫の花だと解るという事は、花の姿や色の美しい感じを言葉で置き換えてしまうことです。言葉の邪魔の這入らぬ花の美しい感じを、そのまま、持ち続け、花を黙って見続けていれば、花は諸君に、かって見た事もなかった様な美しさ、それこそ限りなく明かすでしょう。
AIによって「分かった気になる」ことは、このスミレの花の美しさを見失うことに似ています。
私たちはAIを使いこなしながらも、この「美を求める心」、つまり自分自身の個性や、内発的な動機、そして物事の本質を捉えようとする姿勢を、決して手放してはならないのです。
最後に
前編では、2025年のAIを取り巻く動きを振り返りながら、AIがどのような方向に進化しているのか、そして何が得意で何が苦手なのかを整理してきました。
AIは着実に賢くなっていますが、万能ではなく、その特性を理解した上で向き合う必要がある技術であることが見えてきたと思います。
後編では、その前提に立ったうえで、AIエージェントの活用やビジネスへの影響、そして組織でAIを使っていく際に直面する壁について考えてきました。
AIは単体で何かを解決する存在ではなく、人が設計したプロセスの中でこそ力を発揮することも、重要なポイントです。
そして最後に触れたのが、AI時代に人に求められる役割です。
判断や目的設定、例外対応、そして他者との信頼関係の構築といった領域は、技術が進化しても、人が担い続ける部分として残り続けます。
AIは仕事を奪う存在ではなく、人と役割を分担しながら価値を生み出すパートナーになりつつあります。
前後編を通してお伝えしたかったのは、AIをどう使うか以前に、AIとどう向き合うかを考えることの重要性です。
AIの進化に一喜一憂するのではなく、自分たちの仕事や組織のあり方を見直す視点として、本記事がその一助になれば幸いです。
記事の筆者

株式会社AVILEN データサイエンティスト
創業メンバーとしてAVILENに参画し、2021年から代表取締役に。 2023年にAVILENを東証グロースに上場。 東京大学大学院を修了し、機械学習による即時的な津波高予測の研究に従事。 金融データ活用推進協会標準化委員。



