営業はどこまでAIに任せるべきか?営業3.0とAIエージェント時代の実践論
営業の現場では今、AI活用が「一部業務の効率化」を超え、営業そのもののあり方を変える段階に入りつつあります。
議事録作成や提案準備といった周辺業務の自動化にとどまらず、誰に・いつ・何を提案すべきかという判断領域にまでAIが踏み込むことで、営業活動は新たなフェーズへと進化し始めています。
本記事では、こうした変化を「営業3.0」という視点で整理しながら、AIエージェントが営業業務にどのようなインパクトをもたらすのかを解説します。
※本記事は2025年に開催したウェビナー「営業革新!AIエージェントで業務を加速する方法」の内容をもとに再編集しています。
アーカイブウェビナーはこちらから視聴いただけます。
目次
テクノロジーがもたらす営業の断片的な変化
まず、近年のテクノロジーの発展が、営業活動にどのような変化をもたらしているのかを見ていきましょう。
議事録AIの普及
音声認識の精度が向上したことで、商談の議事録をAIが自動で作成するツールが当たり前のように使われるようになりました。
私たちが社内で使っている『tl;dv』『JamRoll』のようなツールもその一つです。これにより、「議事録を人間が書かない時代」はもうすぐそこまで来ています。
重要なのは、これにより営業やカスタマーサポートといった顧客との接点情報が、漏れなく全て“組織の知”として蓄積できるようになった点です。
音声合成やLLMによる会話能力の向上
音声認識だけでなく「音声合成」や「LLMによる会話能力」の向上により、営業がPCを操作する際のインターフェースが音声中心になったり、電話業務の一部が自動化されています。
例えば、保険の解約手続きのような一次対応をAIが行うデモでは、AIが人間の言葉を柔軟に理解し、フルネームで答えていない場合に聞き返したり、和暦を西暦に変換して確認したりといった、従来のシナリオ型ボットでは不可能だった対話が実現しています。
AIエージェントが変える仕事のあり方
これまで見てきたような技術の発展は、AIがもたらすビジネスインパクトの方向性を示唆しています。私たちはAIの価値を大きく4つに分類できると考えています。
- 未来の予測: 顧客のスコアリングなど、データに基づき未来を予測し、より良い意思決定を支援する。
- パーソナライズ: 無限にスケールできるAIの能力を活かし、顧客一人ひとりに最適化された提案を行う。
- 自動化: 人が行っている業務プロセスを自動化し、効率化やコスト削減を実現する。
- 組織知化: エース営業の知見などをデータとして蓄積・分析し、組織全体の力に変える。

そして、これらのインパクトを最大化する鍵となるのが「AIエージェント」です。従来のChatGPTのようなAIツールは、指示に対して応答を返す“受動的”なものでした。
しかしAIエージェントは、与えられた目標に対して“能動的”にタスクを遂行します。特定の業務範囲において、自律的に、あるいは全自動で仕事を進めてくれる存在です。
AIエージェントの登場により、AIと人間がそれぞれの強みを活かして協働する新しい業務プロセスをいかに生み出せるかが、今後の競争力を左右する非常に重要な問いになってきます。
【関連記事】AIエージェントとは何か?定義、仕組み、導入メリットから未来予測まで解説
営業を取り巻く環境変化と「営業3.0」という新パラダイム
ここで、営業を取り巻く環境の変化を改めて整理してみましょう。
- 情報の民主化とデータの激増: 顧客はインターネットやAIを使って多くの情報を事前に得られるため、単なる商品紹介型の営業は通用しなくなりました。
- 顧客ニーズの多様化: 顧客のニーズが複雑化し、取り扱う商材も増えたことで、特に若手営業が全てのニーズや商品を把握することが困難になり、提案機会の損失が多発しています。
- 競争環境の激化: 競合との顧客の奪い合いが激しくなり、相見積もりが当たり前の時代になっています。
こうした環境変化に対応するため、営業のあり方も進化してきました。私たちはこれを「営業1.0」から「営業3.0」へのパラダイムシフトとして捉えています。

- 営業1.0『個人の才能に依存した時代』: スター営業が属人的なパワーで売上を牽引していた時代。
- 営業2.0『デジタル化による効率化の時代』: CRMやSFAを導入し、データを共有することで安定的な成長を目指す時代。現在、多くの企業がこのステージにいます。
- 営業3.0『AIと人間の融合による革新の時代』: AIがデータ収集や分析、雑務を全て行い、人間は創造的な業務や顧客との深い関係構築に集中する時代。
マッキンゼーのレポート(「日本の営業生産性はなぜ低いのか」)によると、日本の営業担当者は社内業務や提案準備に多くの時間を費やし、本来最も時間を割くべき顧客への営業活動が全体の10〜25%に留まっているという課題があります。
「営業3.0」は、この構造的な問題を解決する可能性を秘めているのです。AIが雑務を自動化することで生まれた時間を使って、営業は人間でしかできない、より本質的な業務に集中できるようになります。
営業3.0への移行を阻む壁=データ入力
しかし、「言うは易く行うは難し」です。営業2.0であるDXに対応できた企業とそうでない企業とでは、すでに業績に大きな差が生まれています。
営業3.0への転換期においても、対応できなければ同様に没落していく可能性が高いでしょう。
では、なぜ多くの企業でAI活用が進まないのでしょうか。
最大の要因は「データが十分に揃っていない」ことです。
AIを活用して営業を高度化するためには、前提として十分な量と質のデータが必要です。
データが揃っていれば、AIを通じて営業先の選定や提案内容の最適化など、高度な営業支援が可能になります。しかし現実には、多くの企業でデータ入力そのものが進まず、結果としてAI活用に至らないケースが少なくありません。
そのボトルネックは、ツールや技術ではなく、営業組織の構造そのものにあります。
主因:営業のインセンティブ不足
データ入力が進まない最大の理由は、営業活動とデータ入力がインセンティブとして結びついていない点にあります。
個人レベルでは「データは入力しているつもり」でも、売上や評価に直結しない入力作業は優先度が下がりがちです。さらに、行動目標や数値目標を達成するために、実態とは異なる情報や形式的な内容が入力されてしまうケースも見られます。
この状態では、SFAやCRMにデータが蓄積されても、AI活用に耐えうる“使えるデータ”にはなりません。
副因:AI活用の「出口」が理解されていない
もう一つの理由は、AIを活用することで何が実現できるのかという出口のイメージが、経営層・現場ともに十分に共有されていないことです。
AIによって営業活動がどう変わるのか、どの意思決定が高度化されるのかが見えなければ、 「なぜデータが重要なのか」「なぜ入力しなければならないのか」は理解されません。
結果として、データ入力は“やらされ仕事”になり、質も量も担保されないまま形骸化していきます。
結論:AI活用が進まない原因は「入力の仕組み」にある
AI活用に必要なデータの入力が進まない理由は、営業の入力インセンティブ不足が主因であり、AI活用の出口設計・理解不足がそれを助長している点にあります。
重要なのは、「営業に入力を頑張らせること」ではありません。営業が意識しなくても、自然に・自動的にデータが集まる業務プロセスそのものを設計し直すことこそが、AI活用の第一歩になります。

こうした課題を乗り越え、営業3.0を実現している企業も存在します。
大塚商会では、AIを活用した営業レコメンドと営業ルート最適化により、営業活動の高度化と生産性向上を実現しています。
- AIによる営業レコメンド(営業先・提案内容)
顧客データや過去の取引履歴をもとに、AIが将来的なニーズを予測。受注確度の高い訪問先を特定し、営業担当者のスケジュールに落とし込むことで、限られた時間の中でも成果につながりやすい訪問・商談を実現しています。
あわせて、訪問時や商談時に話すべき内容もレコメンドされるため、提案の質そのものも向上しています。 - 営業ルートの最適化
ターゲット顧客を効率的に訪問するためのルート最適化もAIで実施。移動時間や訪問効率を考慮した最適なルートを算出することで、営業活動の無駄を削減し、より多くの顧客との接点創出につなげています。 - デジタル・分業化されたバックオフィス
営業担当者が商談に集中できるよう、バックオフィス業務のデジタル化・分業化を推進。
営業支援センターがデジタルツールを活用し、提案書や見積書作成などの事務作業を営業担当者に代わって対応する体制を構築しました。
その結果、受発注処理の効率化が進み、人的ミスや属人性が排除されただけでなく、管理会計の精度向上にも寄与しています。
【関連記事】AI変革の最前線 #1 「経営層が学ぶ」から始める全社変革 大塚商会が見せる、AI時代のリーダーシップ
AIと共存する未来の営業プロセス
私たちAVILENが提案するのは、まさに発想の根底からの転換です。それは、営業活動におけるデータ収集のあり方そのものを見直すことを意味します。
従来の努力主義的なアプローチ、すなわち、「営業によるデータ入力は諦め、データを自動かつ適切に収集するアプローチをとる」という大胆なシフトチェンジこそが、これからの競争優位性を確立する鍵となります。
1. 現場の負担をゼロにする「自動データ収集」の仕組み
長年にわたり、企業は営業担当者にインセンティブを与えたり、複雑な評価制度を変えたりすることで、SFAへのデータ入力を促そうとしてきました。しかし、これらの施策は往々にして、営業の本来業務である「顧客との関係構築」や「提案活動」の時間を奪い、現場の疲弊を招く結果になりがちです。
それならば、この困難な課題を人間に課すのではなく、AIエージェントに任せてしまえばいいのです。
- オンライン商談の場合: Web会議システムの録画データをAIがリアルタイムで解析します。
- オフライン商談の場合: 録音データをAIがテキスト化し、高精度の議事録を作成します。
このAIが作成した議事録やトランスクリプトから、「顧客の抱える真の課題」「提案に対する反応」「競合の言及」「ネクストアクション」といった、SFAの該当項目に必要かつ質の高い情報を自動で抽出し、入力します。
このようなシームレスで自動化されたプロセスを構築することで、営業担当者はデータ入力作業に一切煩わされることなく、彼らの活動の「副産物」として、質の高いデータが自然と、かつ確実に蓄積されていくのです。
2. データが拓く新しい営業の姿
データ入力の自動化は、単なる業務効率化に留まりません。その実現は、営業活動そのものを次のステージへと進化させます。
データが自動で集まることで、AIは商談議事録や過去の履歴データから、顧客の潜在的なニーズや、業界特有の課題を深く分析できるようになります。
この分析に基づき、AIは以下の具体的な支援を自動で提供します。
- レコメンド機能の高度化:
自社の膨大な商材ラインナップや成功事例と顧客ニーズを掛け合わせ、「この課題を持つ顧客には、このソリューションを売れば、成功確度は極めて高い」という、具体的な提案のレコメンドや、次に取るべき戦略的なアクションプランを提示します。 - 提案ストーリーの自動生成:
6〜7割程度の完成度で、顧客の状況に合わせた提案資料の構成案や、プレゼンテーションの叩き台となるストーリーラインを自動で作成します。
営業担当者は、ゼロから資料を作る重労働から解放され、AIが提供したこの“叩き台”を基に、自身の経験や顧客との信頼関係を通じて得たニュアンスを加えてブラッシュアップし、よりパーソナライズされ、成約確度の高い「高度な提案」に仕上げることに、集中できるようになります。
3. データと人の相互作用が企業の競争力を最大化する
AIによる効率化で創出された「時間」こそが、企業の圧倒的な競争力の源泉となります。
このAIによって生まれた時間を使って、営業担当者は、オフィスやオンラインの画面を離れ、「オフラインにおける泥臭い、人間的な関係構築」により多くの時間を割くべきです。
- 顧客のキーパーソンとのランチや、業界イベントでの深い対話。
- 競合他社の動きや、ネット上の公開情報だけでは決して得られない、顧客の経営層の「本音」や「未来の構想」といった、本当に価値のある「一次情報」を獲得する。
そして、この貴重な一次情報を、AIシステムにフィードバックすることで、企業のデータ資産はさらに質・量ともに強化されます。
データが増えることでAIの提案精度や分析能力も飛躍的に向上し、それがさらに質の高い提案を生み出すという、データと人間が相互に能力を高め合う「知的な成長サイクル」が確立されます。
重要なのは特定のツールを導入することではなく、「営業が意識せずともデータが自動で集まる“プロセス”」と、それによって生まれた時間を「顧客との深い関係構築」に使うことを「当たり前とする“文化”」を構築すること。
これこそが、これからの企業が生き残るための、不可欠な戦略となります。データは後からでは取り戻せない、最も重要な資産なのです。

市場は確実に変化しています。営業3.0、すなわちAIエージェントを徹底的に活用して営業を変化させていくことは、もはや選択肢ではなく、企業の存続と成長に必須の戦略です。
私たちAVILENは、AI戦略の策定からエージェントの開発・導入、そして業務プロセスの変革まで、一気通貫で伴走できるパートナーです。
もしご興味を持っていただけましたら、ぜひお問い合わせください。共に、未来を創る選択をしていければと願っています。
記事の筆者

株式会社AVILEN データサイエンティスト
創業メンバーとしてAVILENに参画し、2021年から代表取締役に。 2023年にAVILENを東証グロースに上場。 東京大学大学院を修了し、機械学習による即時的な津波高予測の研究に従事。 金融データ活用推進協会標準化委員。



