AIを進められる組織は、何が違うのか?大塚商会×AVILEN対談が示したヒント
2024年12月3日、株式会社大塚商会と株式会社AVILENによるウェビナー「AI変革の最前線 #1 「経営層が学ぶ」から始める全社変革 大塚商会が見せる、AI時代のリーダーシップ」が開催され、AI活用や人材育成といったテーマを軸に、大塚商会における実践的な取り組みや、経営と現場をどのようにつないでいるのかが語られました。
本記事は、当日の対談内容を採録した記事とは異なり、対談全体をあらためて俯瞰し、筆者(第三者)の視点から感じたポイントを整理したうえで、視聴者から寄せられた質問(FAQ)を補足的に紹介する特別記事です。
AIという言葉が先行しがちな今、この対談から見えてきたのは、技術そのものよりも「変化との向き合い方」でした。
※対談内容の詳細は以下記事からお読みいただけます。

目次
監修者

株式会社AVILEN コンサルタント
東京大学大学院修了。BCGプロジェクトリーダー、ITベンチャー執行役員を経てAVILENに入社。 BCGでは製造業・通信・金融・小売・製薬等の業界でトランスフォーメーション、ターンアラウンド等々のテーマで戦略策定から実行支援に従事。ITベンチャーでは基幹事業の責任者として5部署を統括し、事業グロースに従事。 AVILEN入社後はビルドアップ事業の責任者や自らも担当をもちながら大企業向けアカウントをリード。
本対談を通して感じたポイント
本対談は「AI活用」や「人材育成」をテーマに掲げながらも終始、技術論に寄り過ぎることなく、組織や人との向き合い方に重心が置かれていました。
AIの話をしているはずなのに、 聞き終えたあとに残るのは「どう変わるか」「どう考え続けるか」という問いです。
第三者の立場から本対談を振り返り、特に印象に残ったポイントをいくつか挙げてみます。
1. AIは「変革の主役」ではなく「問いを生む存在」として扱われていた
対談を通して一貫していたのは、AIが何かを一気に変える魔法の道具として語られていなかった点です。AIは、業務や組織の課題を浮かび上がらせ、 「このやり方は本当に最適なのか」「これまでの前提は、今も通用しているのか」といった問いを生む存在として位置づけられています。
AIを導入すること自体がゴールではなく、変化を考えるためのきっかけとして扱われている。この距離感が、対談全体に落ち着いた説得力を与えていたように感じます。
2. 変革は「声高に語るもの」ではなく「淡々と積み重ねるもの」
本対談で語られていたのは、日々の取り組みを少しずつ積み重ねてきたという事実です。この淡々とした語り口そのものが、変革を特別なイベントではなく、日常の延長線上にあるものとして捉えている姿勢を表しているように感じました。
変革を掲げて人を動かすのではなく、変化が当たり前になる状態をつくる。そのスタンスが、対談全体ににじんでいました。
3. 経営者は「答えを示す人」ではなく「問いを持ち続ける人」として描かれていた
対談を通して描かれていた経営者像は、明確な正解を示し続ける存在ではありませんでした。むしろ印象的だったのは、状況を見ながら考え続け、周囲の意向を確認し、必要に応じて立ち止まる姿勢です。
変化の激しい時代においては、答えを持つことよりも、問いを持ち続けること自体が経営の役割になっている。そんなメッセージが、対談全体から伝わってきました。
4. 人材育成は「熱量」ではなく「構造」で語られていた
人材育成の話題においても、精神論や理想論に寄ることはありませんでした。学びをどう促すかというテーマは、制度や仕組み、環境といった構造の話として語られていました。
学ぶ意欲を求めるのではなく、学ぶ行動が自然に選ばれる状態をどうつくるか。人を動かすのではなく、人が動きやすくなる環境を整える発想が一貫していました。
5. 「変えないこと」を意図的に選ぶ姿勢も、同時に語られていた
本対談が印象的だった理由の一つに、 「変えること」だけでなく「あえて変えないこと」にも触れられていた点があります。
すべてを新しくすればよいわけではない。これまで大切にしてきた価値観や習慣の中には、今も有効なものがある。重要なのは、それを惰性で守るのではなく、今も意味があるかを問い続けたうえで、意図的に選び取ることです。変革とは、壊すことではなく、選び直し続けることだと感じました。
視聴者Q&A
本ウェビナーは録画配信形式での実施だったため、当日のリアルタイムでの質疑応答は行っていませんでした。一方で、視聴後アンケートには、AI変革や組織づくりに示唆に富む質問が複数寄せられました。
ここからは、そうした視聴者からの問いに対して、後日、大塚商会 上席執行役員の山口氏よりご回答いただいた内容をいくつかピックアップし、FAQ形式で整理・紹介します。
Q1.
AIを推進する中で、部下や現場からの反感はなかったのでしょうか?もしあった場合、どのように巻き込んでいったのかが気になります。
A.
社内利活用において、AI活用を推進すること自体に対する反感は、特にありませんでした。
AIを外部に提供するビジネスについては、「AIビジネス推進プロジェクト」を立ち上げ、スモールスタートで取り組みを開始しています。当初は機械学習を用いたデータ分析案件が中心でしたが、生成AIの登場により、プロモーション部隊が関連製品を取り扱うようになり、現在の体制へと発展してきました。
結果として、無理に全社へ広げるのではなく、実績を積み重ねながら段階的に展開したことが、自然な浸透につながったと考えています。
Q2.
山口様いわく、「AIを使って個人のモチベーションの状態(「心の資本」と呼んでいます)や、所属する組織の心理的安全性を可視化し、できるだけ高い次元で安定させるような取り組みもしています」とのことですが、「心理的安全性」という考え方は、日本企業の経営層の中で一般的な認識になっているのでしょうか?

A.
業界や世代によって、まだ差があると感じています。社会の常識や働き方の前提が大きく変化していることを、特にベテラン層の方々は意識する必要があると思います。過去のやり方を成功体験として貫き通してしまうと、若い世代にとって働きにくい職場になってしまう可能性もあります。
個人的には、古き良き習慣は大切にしたいと考えていますが、それが今の組織全体にとって適切かどうかを、常に全体の意向を確認しながら判断するようにしています。
心理的安全性とは、すべてを変えることではなく、変えるべきものと守るべきものを見極め続ける姿勢だと考えています。
Q3.
G検定・E資格に続いて、今後さらに注目している資格領域はありますか?
A.
大塚商会では、社内の推奨資格一覧を社員に提示し、資格取得に対して一時金および月額手当を支給しています。
特定の資格に限定するのではなく、社員の役割や専門性に応じて、事業や顧客価値につながる資格取得を幅広く後押しする方針です。
推奨資格の詳細については、以下のページで公開しています。
https://jinzai.otsuka-shokai.co.jp/shinsotsu/recruit/qualification.html
まとめ
本対談とFAQを通して見えてきたのは、AI変革の本質は技術ではなく、人と組織がどう変化に向き合うかという点でした。AIをどう使うかを考える前に、どんな姿勢で変わろうとしているのか。本記事が、その問いをあらためて考えるきっかけになれば幸いです。
ウェビナーにご参加いただいた方はご視聴、またご質問をいただき、誠にありがとうございました。
記事の筆者

株式会社AVILEN マーケター
立命館大学文学部を卒業後、大手地方新聞社、ビジネス系出版社での編集、広告営業職を経てブレインパッドにマーケターとして参画。2020年にDX、データ活用をテーマにしたオウンドメディア『DOORS -BrainPad DX Media-』を編集長/PMとして立ち上げ、グロース。ブランディングとプロモーションを両立したコンテンツマーケティングで成果を上げ、2022年にグループマネジャーに昇進。2025年7月よりAVILENに参画。

