【AI変革事例_エネルギー業界】AIによる高精度な電力需給予測システムの構築

電力需給予測の精度を向上させ、収益最大化を実現するAIを開発した事例です。
LightGBMを用いた時系列モデルと気象・発電データの統合により、予測誤差を2%以上改善。
インバランスリスクの低減と運用コスト削減を実現し、データに基づく意思決定プロセスの確立に貢献しました。
監修者

株式会社AVILEN
執行役員 CTO 兼 D&Aソリューション事業担当 / データサイエンティスト
広島大学大学院卒業。コンピュータビジョン、機械学習、ディープラーニング領域を専門とするデータサイエンティスト。複数の国際学会へ査読付き論文の採択実績を持つ。2021年、AVILENに参画。AIソリューション事業の最年少マネージャーとしてIPOをはじめとする事業拡大、SaaS事業の立ち上げからグロースを牽引。データ・AI・デジタルを軸としたビジネスモデルの再構築とビジネスプロセスの根本的な変革を、広範な業界の企業に対して支援を行う。
課題
電力市場は非常に厳格な規制下にあり、事業者は数日先の発電予測を提出しなければなりません。
実際の供給量と予測値に差が生じる「インバランス」が発生すると、ペナルティが課せられる仕組みとなっているためです。
同社では従来、社内のデータサイエンティストが自社で機械学習モデルを構築し予測を行っていましたが、以下の課題を抱えていました。
- 予測の不正確さによるコスト増
予測が外れ、自社の発電量が不足した場合には外部から電力を調達する必要があり、その度に多額のコストが発生していました。 - インバランスリスクの高止まり
予測精度が不十分なため、効率的な電力運用ができず、ペナルティリスクを払拭できずにいました。 - 規制変更への対応
将来的な規制強化により求められる「翌々日予測」への対応を見据え、より高度な予測モデルの確立が急務となっていました。
ソリューション
AVILENのデータサイエンティストが参画し、既存モデルの抜本的な見直しと精度向上を図るため、以下の多角的なアプローチを実施しました。
- 高度な時系列予測モデルの開発
勾配ブースティング(※)決定木アルゴリズムの一つである「LightGBM」を採用し、63.5時間後(翌々日)から1.5時間後(当日)までの需要量を段階的に予測する機械学習モデルを構築しました。
※決定木をベースにしたアンサンブル学習法の一つ - 多様なデータの統合活用
気象データや過去の発電実績に加え、風車の特性や季節性などの複雑な要素を分析に組み込みました。 - 特徴量エンジニアリングによる精度研磨
予測精度を左右する重要な変数を抽出し、モデルの最適化を行うことで、予測値のブレを抑制しました。 - 厳格な評価指標の導入
予測誤差の確率算出や、「Time Series Split Cross-Validation(時系列分割交差検証)」(※)による多段階の精度評価を行い、実運用に耐えうる信頼性を担保しました。
※データの時間的な前後関係を維持しながらモデルを評価するための交差検証手法
成果
最大の成果は、予測精度(MAPE)が目標値の2.00%を上回り、現行比で2%以上の改善を達成したことです。電力需給予測のように外部要因の影響が大きい高難度領域では、精度改善は0.数%単位でも価値があるとされており、2%という改善幅は極めてインパクトの大きい成果といえます。
特に本ケースでは、予測誤差の低減がインバランス発生の抑制に直結するため、単なる精度向上に留まらず、外部調達やペナルティ発生頻度の低減を通じて、運用コスト構造そのものの改善に寄与しています。
これにより、これまで多額の負担となっていたインバランスリスクが大幅に低減され、収益性の安定化とコストの最適化を同時に実現しました。
また、技術的なハードルが高かった「翌々日予測」への対応を完了したことで、将来的な規制変更にも対応可能な予測基盤を構築。
短期的な精度改善にとどまらず、事業運営の柔軟性と持続性を高める土台を確立しています。
さらに、本取り組みを通じて、需要予測を個人の経験や勘に依存するのではなく、データとモデルに基づいて意思決定を行うプロセスが組織内に定着しました。
これは単なる業務改善ではなく、意思決定の質と再現性を高める変革であり、今後のエネルギー市場における競争優位性の確立に直結する重要な成果です。
まとめ・考察
本事例は、専門性の高い社内人材が既に活動している組織に対し、AVILENの高度な知見を掛け合わせることで、技術的な限界を突破した好例と言えます。
特筆すべきは、単にAIモデルを開発するだけでなく、電力市場特有のペナルティ制度や厳しい規制を深く理解し、ビジネスインパクトに直結する「精度」を追求した点にあります。
この取り組みがAI変革と言える理由は、不確実性の高い自然エネルギーの供給を、高精度な予測によって制御可能な「計算資源」へと変貌させた点にあります。
今後は、蓄積されたデータと予測基盤を応用し、蓄電池の充放電最適化や、電力市場価格の予測への展開も期待されます。
電力供給の全体像をAIで精緻に捉え続けることで、エネルギーの安定供給と収益最大化を両立する、持続可能なビジネスモデルへの進化が続いていくでしょう。
AVILENが考えるAI変革とは
AVILENでは、AI変革を単発のAI導入や受託開発の積み上げではなく、企業の業務・意思決定・組織を段階的に変えていくプロセスと捉えています。
そのため、AI活用はいきなり大規模に進めるのではなく、段階を踏んで進めることが重要だと考えています。
AI導入は「5つのステップ」で進める
AVILENでは、AI変革を以下の5ステップで整理しています。
- リテラシーをつける
データ・AIの基本理解を揃え、技術の可能性と限界を正しく認識する - ビジョンを描く
AIを使って、どこで競争優位を作るのかを明確にする - Quick Winを実現する
短期間で成果が見えるテーマに絞り、成功体験をつくる - 体制を構築する
人材・組織・データ・システムを含めた推進体制を整える - 活用範囲を拡大する
PDCAを回しながら、AI活用を組織全体へ広げていく
AI変革を支える3つの考え方
この5ステップを進めるうえで、AVILENが大切にしている考え方は次の3点です。
- コア部分から小さく始め、大きく広げる
- 試しながら学ぶ、アジャイルなPDCA
- 外部に頼りきらず、徐々に内製化していく

本事例の位置づけ
本記事で紹介する取り組みは、こうしたAI変革のプロセスの中で設計された一つの実践例です。
AVILENは、「AIを作る会社」ではなく、AIを使って企業の変革を前に進めるパートナーでありたいと考えています。
記事の筆者

株式会社AVILEN
マーケティングチームリーダー/シニアマーケター / マーケター
立命館大学文学部を卒業後、大手地方新聞社、ビジネス系出版社での編集、広告営業職を経てブレインパッドにマーケターとして参画。2020年にDX、データ活用をテーマにしたオウンドメディア『DOORS -BrainPad DX Media-』を編集長/PMとして立ち上げ、グロース。ブランディングとプロモーションを両立したコンテンツマーケティングで成果を上げ、2022年にグループマネジャーに昇進。2025年7月よりAVILENに参画。




