n次MAモデルの性質
n次MAモデルについて考える前に2つの性質を確認しましょう。
性質1
n次MAモデルがホワイトノイズの和で表される。
ARモデルと異なる点はytを複数の時点に発生するホワイトノイズという乱数の和を用いて表現している点です。
性質2
2つ目はn次MAモデルが常に定常過程であるということ。
これはn次MAモデルが時点に関わらず一定の期待値、自己共分散を持つことを意味します。
n次MAモデルの式
n次MAモデルは以下の式で表されます。
yt=θ0+εt+θ1εt−1+⋯+θnεt−n …(1)
(1)式を見ると確かにn次MAモデルが定数項 θ0とn時点前までの過去のホワイトノイズの加重和によって表されることが分かります。
また、n次MAモデルはn次自己相関まで考えることができます。一方で1次MAモデルは1次自己相関しか表現できません。n次MAモデルが表現力に富んだモデルであるということが分かります。
n次MAモデルの統計量
期待値
n次MAモデルのytの期待値は(1)式の両辺の期待値をとることによって求めることができます。
yt=θ0+εt+θ1εt−1+⋯+θnεt−n
(1)式の両辺の期待値をとると
E[yt] =E[θ0]+E[εt]+θ1E[εt−1]+⋯+θnE[εt−n]=θ0
ホワイトノイズの期待値がE[εt]=0であることを用いた。
上記からn次MAモデルの期待値はθ0であると分かります。
自己共分散
n次MAモデルのj次自己共分散γjについて考えます。
まずは自己共分散γ0、分散V[yt]について考えてみましょう。
n次MAモデルのytの分散は(1)式の両辺の分散をとることによって求めることができます。
V[yt] =V[θ0]+V[εt]+V[θ1εt−1]+⋯+V[θnεt−n] =V[εt]+θ12V[εt−1]+ ⋯+θn2V[εt−n]=(1+ θ12+ ⋯+ θn2)σ2
ホワイトノイズの分散がV[εt]=σ2であることを用いた。
次にj次自己共分散 γjについて考えてみましょう。
γj =Cov[yt,yt−j]=Cov[θ0+εt+⋯+θnεt−n, θ0+εt−j+⋯+θnεt−j−n]
yt,yt−jについて(1) 式を用いて変形した。
Cov[θ0+εt+⋯+θnεt−n, θ0+εt−j+⋯+θnεt−j−n] … (2)
(2)の共分散について場合分けを用いて考えます。
0≤ j ≤n の場合
(2)式の中を展開すると、
εt−j,εt−j−1,⋯, εt−n
に関して、ホワイトノイズの分散V[εt]=σ2が表れます。
(2)式のその他の項に関しては、ホワイトノイズの自己共分散なのでCov[εt,εt−j] =0となります。
これらを用いて(2)式を変形すると以下のようにj次自己共分散γjが求めることができます。
γj=(θj+ θj+1θ1+⋯+ θnθn−j)σ2, 0≤ j ≤ nの時
n<jの場合
この時、ytの最も古いホワイトノイズ, yt−jの最も新しいホワイトノイズ、εt−nとεt−jの時点を比べた時にt−n>t−jとなります。
ホワイトノイズの自己共分散についてCov[εt,εt−j] =0が成立するから、(2)式を展開したすべての項が0となります。
よって、j次自己共分散γjが以下のように求めることができます。
γj=0, n<j の時
よってj次自己共分散γjは以下のように表すことができる。
γj={ (θj+ θj+1θ1+⋯+ θnθn−j)σ2 0(0< j ≤n)( n<j)
自己相関
j次自己相関pjを求めるため、j次自己共分散γjを分散V[yt]、つまり自己共分散γ0で割る。
j次自己相関pjも場合分けを用いて考える。
以下では、先ほど求めたj次自己共分散の値を用いて自己相関の値を求める。
0< j ≤n の場合
pj= γ0 γj= 1+ θ12+ ⋯+ θn2 θj+ θj+1θ1+⋯+ θnθn−j, 0≤ j ≤ nの時
n<jの場合
pj= γ0 γj=0, n<j の時
よってj次自己相関 pjは以下のように表すことができる。
pj=⎩⎨⎧1+θ12+⋯+θn2θj+θj+1θ1+⋯+θnθn−j0(0<j≤n)(n<j)
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