AIプロジェクトの企画と失敗しない進め方を解説
現在、さまざまな業界で人工知能(AI)を使った事業を企画し、ビジネスに活用する事例が増加している。そこでAVILENは、AIプロジェクトの企画から開発、運用に至るまでの進め方と、失敗しないためのポイントについて解説する。
目次
AIプロジェクトの進め方
本稿では、AIプロジェクトは「AI技術を活用して、何らかの利益を生み出すようなプロジェクト」を指すものとする。AIプロジェクトの進め方は、大きく4つのステップに分けられる。
(1)企画フェーズ:事業の方向性を決める。
(2)調査フェーズ:開発・導入に必要な情報を集めて判断する。
(3)開発フェーズ:調査の末に実現可能性が認められたものに対してシステム開発する。
(4)運用フェーズ:システムを実際に導入して、調整・改善する。
以降では、それぞれのフェーズについてどのようなアクションを実行すべきか解説する。
(1)企画フェーズ
・プロジェクト発足
このフェーズでは、まずプロジェクトの立ち上げから始まる。AIを使ったプロジェクトが発足するきっかけは、大きく分けて2種類のパターンがある。
(A)トップダウン型
会社の上層部が新規のAI事業に乗り出し、それを特定の部署などに任せるパターン。内部向けの業務改善よりも、タクシーの配車予測・店舗来客分析などの対外的な新しいサービスを作るケースが多い。
(B)ボトムアップ型
現場での業務に対する課題を解決するために、従業員からAIを導入しようという提案が上がるパターン。提案後、上層部の承認を経て正式にプロジェクト発足となる。自社製品の不良品検査の自動化など、業務改善に繋がるケースが多い。
・チーム結成
企画から運用まで1人で行われることは稀で、たいていのケースでは必要な人員を集めて、プロジェクトチームが結成される。このとき、AIについて知見がある人材がチームに多く在籍していると心強い。
<チームにいると心強い人材>
職種 | 概要 |
---|---|
AIエンジニア | AIモデルやその技術的概念を理解したうえで、AIモデルを搭載したシステムを開発できる人材。 |
AIプランナー | AIの特徴や課題を理解したうえで、AIを活用した製品・サービスを企画し、他部署や上層部と折衝しながら市場に売り出していく人材。 |
参考記事:AIエンジニアのキャリアパス|キャリアアップするためのスキルも合わせて解説
・課題設定
チームを結成してキックオフしたら、まずは課題を設定する。
「会社の主力製品とAIを組み合わせた新規事業の創出」「業務の自動化による人員削減」など、会社によって課題は様々だ。「利益は○○万円」「負担を3割軽減」など、目標の達成度合いも定めておくとよい。また、プロジェクトの期間や費用についてもある程度決めておく必要がある。
プロジェクトの概要を詳細まで詰めたところで、調査フェーズに移っていく。
(2)調査フェーズ:PoC
開発・導入に必要な情報を集めて判断するフェーズ。このあたりから、自社の人材だけでは遂行が困難で、AI企業にコンサルティングを依頼するというケースもある。
必要な情報を集めるためによく行われる調査が、PoC(Proof of Content:概念実証)だ。新しい技術やアイディアなどに対し「実現可能か」「目的の効果を得るためには何が必要か」といった項目を徹底的に検証する。つまり、業務上の課題をAIモデルで解決することは可能かどうか、まずは調査しなくてはならない。
<調査のポイント>
①既存のAIやRPAのツールを導入して課題が解決可能か
②新しくAIモデルを開発するのは、技術的・リソース的に実現可能か
①は疎かにされがちだが、意外と重要なポイントだ。たとえば、紙で管理していた書類をデータ化したいといった課題であれば、さまざまな企業で導入されている「DX Suite」というツールを利用することができる。
このように既存のツールの導入で課題が解決できるのであれば、新しくAIモデルを開発するよりもコストを抑えられる。またツールの導入以前に、データ収集体制を構築するなど、社内のワークフローを整備するだけで課題が解決できることもある。
もし適切な既存ツールが無かったときは、②の調査が行われる。狭義のPoCといえばこちらを指すことが多い。
このときはAIモデルの簡易版を作り、現場で実際に使用して具体的な検証を行う。簡易版モデルの効果を確認・評価して、課題解決に十分な成果が得られそうだと判断されれば、初めて本番開発に移行できる。
なお、簡易版モデル開発用に本番とは別途データ収集が必要となる可能性があることも覚えておきたい。
<課題とデータの対応例>
課題 | 用意するデータ |
---|---|
書類整理の自動化 | 書類の画像、またはPDF |
問い合わせ自動化(チャットボットなど) | 実際の問い合わせの質問・応対データ |
・契約締結
契約のタイミングはPoCを行う際や、本番開発に移行する際など、プロジェクトにより異なる。後々のトラブルを防ぐために、モデルやデータの著作権がどちらに帰属するのか、など権利について当事者間でしっかり合意しておく必要がある。
(3)開発フェーズ
ここまで来たら、いよいよ開発に移る。パートナー企業と入念に打ち合わせを重ねて、必要なモデルを制作し、システム開発を進めていこう。
・システム要件定義
PoCの結果を踏まえて、開発したいAIモデルの仕様を決めるフェーズ。どのようなデータを用いて、どのような手法で、何を予測するのか、といった細かい部分まで詰める必要がある。
・本番データ収集
PoCよりも多くのデータが必要になるので準備を整える。データ収集体制が完璧に構築できていれば問題ない。しかし、社内で体制が整っていないと、データがほとんど蓄積されていないこともある。このときは、データを一元管理する態勢を整えるか、外部の企業などからデータを購入するといった対処法がある。いずれにしても、社内の人的・経済的なリソースとの相談になるだろう。
・本番モデル開発
要件定義で決定した仕様と収集したデータをもとに、本番のモデルを開発していく。内製化が難しい段階なので、パートナーとなるAI企業に依頼することが多い。
本番モデル開発が完了したら、実際の業務にテスト導入する。要件定義の際に定めた精度が出せたら完成だ。
(4)運用フェーズ
モデルが完成したら終わりというわけではない。継続的に運用していくための体制づくりも重要だ。
・データ更新
AIモデルを継続的に高い精度で運用するためには、最新のデータを次々と学習させることが必要になる。社内にデータを更新する体制を整えておく方法と、他のAI企業に運用を委託する方法がある。
・モデル改善
継続的な運用のためには、モデルの精度を改善していくことも重要だ。新しい手法を取り入れたり、学習させるデータの種類を増やしたりするなど、精度の向上には様々なアプローチがある。パートナー企業と相談して新たに改善プロジェクトを立ち上げると良いだろう。
よくある失敗例
以上が、AIプロジェクトを進めるうえでの大まかな流れだ。しかし、実際にプロジェクトを遂行するのは非常に難しい。
実は、AIプロジェクトの大半が期待していたほどの成果を出せていない。特に企画からPoCへ進む時点で、47%ものプロジェクトが頓挫してしまっている。そこで、代表的な失敗例とその解決策をいくつか紹介する。
引用:投影スライド「平成30年度成果報告書 産業分野における人工知能及びその内の機械学習の活用状況及び人工知能技術の安全性に関する調査」より
ケース1:AIプロジェクトを立ち上げたが、社内にAIプランナー/AIエンジニアがいない…
この事態は上長からの指示でプロジェクトを立ち上げたときに起こることが多い。プロジェクトチーム内にAIに知見のある人材が少ないと、適切な計画策定や調査・開発ができずにプロジェクトがうまく進まない。
対策としては、社員研修を実施するなどして社内に頼れるAI人材を育成しておくことが必要だ。
ケース2:事前調査を十分に行わず、すぐに開発に入ってしまう…
これは「とにかくAIを導入すればなんとかなる」という思い込みがあると起こりやすい事態だ。事前調査を怠ると、本来不要なはずのAIを導入することになってしまい、費用対効果が悪化する。
対策としては調査フェーズを徹底し、本当に新しいAI開発が必要なのかを見極めることが必要だ。
ケース3:学習に必要なデータが足りていない…
これはPoCや開発のフェーズで発生することが多い。学習データが足りずに、期待していたほどの精度が出せないということが起こりうる。予めプロジェクトを立ち上げる前からデータ収集基盤を整えておくのが理想だが、そこまで体制が整っている企業は多くない。
そのため、プロジェクト立ち上げの時期に必要なデータを定義して、収集を始めておくのが実践的な対策だろう。どのようなデータを収集すればよいか専門家に相談しておくと、失敗せずに済む。
AIプロジェクト成功事例:トマトの収穫作業の自動化
それでは、実際にどのようなプロジェクトが成功しているのか事例を見てみよう。ディープラーニングによって、トマトの収穫作業を自動化したAIシステムを例に挙げる。
これは農作物を収穫する際の人手不足を解消するためのツール。「もし機械が実と枝の部分を正確に認識できれば、機械による作物収穫が可能となる」という見込みに基づいて開発された。
その際に課題となったのが「実とそれ以外の部分を正確に認識する」という点だ。この場合はまず、ディープラーニングの学習データを収集するため、実際に農家へ出向いてトマトの画像を撮影している。
次に撮影した写真をもとに、あらかじめ実や枝など部分ごとに区分けしてからAIモデルに学習させる。その後、画像内の作物の部位を自動的に色分けできるまで精度を上げていく。モデルが正確に作物の部位を認識できるようになれば完成だ。
このように専門家と協力して課題を明確にした上で、正しく大量にデータを収集することで、AIプロジェクトを成功に導くことができる。
まとめ
AIを導入することで業務上の課題を改善することができれば、大きな効果を見込める。AIプロジェクトの可能性は無限大だが、実はスムーズに進めるのはかなり難しい。
AIプロジェクトが失敗に終わる原因は、大半が準備不足だ。人材・データ・予算など、事前準備を怠ったがゆえに様々なトラブルが起こってしまう。
このため、AIプロジェクトの進行に際しては「課題の明確化」と「人材確保」、そして「事前調査」といった計画的な準備が必要だ。このときに「データ収集体制の構築」も同時に行えるとなお良い。
計画に際しては、自社のビジネス・事業を理解し、かつ、信頼できるようなAIの専門家やパートナー企業などとともに、最先端の機械学習・ディープラーニング手法のトレンドを収集して総合的に判断することをおすすめする。
記事の筆者
AVILEN編集部
株式会社AVILEN