「Claudeショック」が変えたSaaSの常識と“AI ファースト”の次の一手

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「Claudeショック」が変えたSaaSの常識と“AI ファースト”の次の一手

AVILEN代表取締役の高橋光太郎です。

昨今「Claudeショック」(※)と呼ばれる出来事によって、ソフトウェア関連の株価が大きく下落しました。

※2026年2月にAnthropic(アンソロピック)社が発表したAIエージェント機能「Claude Cowork」および関連技術の登場により、米国の株式市場、特にSaaS(Software as a Service)業界に激震が走った現象。

グローバル市場では、一日で約43兆円もの時価総額がソフトウェア株から失われたと言われています。
これは単なる市場の一時的なパニックではなく、ソフトウェアのあり方そのものが根本から変わるという、構造的な変化の表れだと私は捉えています。

私たちAVILENは、「AIで未来がどうなるか、そしてそれをどう実現するか」をお客様に提供している会社です。
だからこそ、こうした市場の大きなうねりを前に、未来がどちらの方向へ進むのかを考察することが極めて重要だと考えています。

今回は、この「Claudeショック」を起点に、これからSaaSやソフトウェア業界に何が起こるのか、そしてその中で私たちがどこへ向かうのかについてお話しします。

「Claudeショック」が市場に与えた衝撃

現在、世界の株式市場は「Claudeショック」を端緒に、ソフトウェア産業の根幹を揺るがす地殻変動に直面しています。

1日で2,850億ドルが消失した歴史的暴落

Claudeショックによる損失(ソフトウェア株から1日で43兆円が蒸発)。

わずか1日のうちに、アメリカのソフトウェア関連株から計2,850億ドル(約43兆円)もの時価総額が蒸発しました。
この衝撃は、単なる一時的な調整ではなく、投資家が「既存ソフトウェアの価値」を根本から再評価し始めたことを示しています。

この影響は日本市場も例外ではありません。
国内SaaSの代表格であるA社は-17%、クラウド会計のB社は-14%、経費精算のC社は-13.5%と、軒並み大幅な下落に見舞われました。

特に注目すべきは、企業の将来性を測る指標であるPER(株価収益率)の構造的な崩壊です。
例えば、C社は36倍から22倍へと、これまで「高成長SaaS」として高い評価を受けてきた企業のPERが軒並み低下しました。

これは、SaaSが将来にわたって成長し続けるという神話が崩れ、市場がその価値を再評価し始めたことを意味しています。

人員削減の波と「構造転換型リストラ」

市場の動きと連動するように、特に米国では大規模な人員削減、レイオフが加速しています

2026年の第1四半期だけで、累計45,000人を超えるレイオフが発生しました。

決済システム「Square(スクエア)」をはじめ複数の金融サービスを展開するブロック(Block)社は、好決算にもかかわらず全社員の40%にあたる4,000人の解雇を発表。
同社のCEOであるジャック・ドーシー氏は「ブロックは、より小規模かつ迅速で、AI活用を前提としたインテリジェンス・ネイティブな企業へと進化することで、今よりもはるかに大きな価値を生み出すと確信している。今後我々が行うすべての施策は、その実現のためにある」と語っています(『利益倍増でも従業員4割解雇、ジャック・ドーシーのBlockが断行した「AI代替」の果実と危険な罠』(Forbes JAPAN)より)。

これは、業績不振による“不況型リストラ”ではなく、AIの活用を前提とした“構造転換型リストラ”と言えますが、実態としては単なる代替(効率化)だけでなく、投資コストの捻出という経営判断が混在しています。

  • ロジックA:AIによる「生産性向上」の結果
    AIチャットボットやコード生成ツールの導入により、実際にタスクを代替し、より少ない人数で同等以上のアウトプットが可能になったケース(例:カスタマーサポートの自動化)。
  • ロジックB:AIへの「投資コスト」を賄うための削減
    AIがまだ業務を代替していない段階でも、GPU購入やデータセンター拡張、AI専門家の採用といった巨額のAIインフラ投資(CAPEX)に必要なキャッシュフローを確保するために人員を削減するケース(例:Meta、Oracle)。


もちろん、日本では雇用文化や制度の違い、そして2030年に644万人の労働力が不足するという予測(※)もあり、アメリカと全く同じ状況にはならないでしょう。
しかし、AIが企業と人のあり方を根本から変えていくという大きな流れは、世界共通のインパクトを持っていると考えるべきです。
※『労働市場の未来推計 2030』(パーソル総合研究所)より

変化の本質:これから何が起こるのか?

株式市場の動向はあくまで一つの側面に過ぎません。
より重要なのは、私たちのビジネスや働き方が実際にどう変わっていくのかを見極めることです。

私は、大きく2つの変化が起こると考えています。

Claudeショックにより、大きく2つの変化が起こる。


一つ目は、「ソフトウェアの買い方」の変化です。

これまで主流だったIDごとの「シート課金」(サービスを利用するユーザー1アカウントごとに月額や年額の固定料金が発生する料金体系)は崩壊に向かうでしょう。

IDCの予測(※)では、2028年までに70%のソフトウェアが「アウトカム課金」、つまり「何が達成されたか」に応じて料金が決まるモデルに移行するとされています。
また、あらゆる操作がチャットUIに集約されていく流れの中で、従来のグラフィカルなUIの価値はゼロに近づいていくかもしれません。
同時に、AIコーディングツールの進化により、企業が自社でシステムを開発する「内製化」も加速していきます。

※『Is SaaS Dead? Rethinking the Future of Software in the Age of AI』(IDC)より


二つ目は、「企業と人のあり方」の変化です。

もはや「AIを使える」ことは当たり前になり、差別化要因にはなりません。
これからは、「AIで何を設計できるか」が個人の、そして企業の価値を決めます。
世界経済フォーラム(WEF)の調査(※)では、雇用主の41%がリストラを、77%がリスキル(学び直し)を計画していると回答しています。
これは、私たちのようなリスキリングやAI導入を支援する企業にとって、非常に大きなチャンスがあることを示唆しています。

『The Future of Jobs Report 2025』(WEF)より

“SaaSpocalypse”の先にある未来:5つの仮説

では、全てのSaaSは死滅してしまうのでしょうか?

私はそうは思いません。

「SaaSpocalypse(SaaSの終末)」という言葉も聞かれますが、過剰反応な部分もあるでしょう。
しかし、構造変化は本物です。私は、今後の変化について5つの仮説を立てています。

“SaaSpocalypse”の先にある未来:5つの仮説


1. レコードを担わないSaaSは死滅する
全てのSaaSがなくなるわけではありません。
顧客データや基幹情報など、企業の「システム・オブ・レコード(記録のシステム)」を担うSaaSは生き残ります。
一方で、UIの便利さだけを売りにしてきたような、レコードを持たないポイントソリューションは代替される可能性が高いです。

2. 課金体系がシート課金からアウトカム課金に移行する
「何人が使うか」ではなく、「何が達成されたか」で課金する世界が訪れます。
例えば、Databricksは消費量課金、Crescendo.aiは解決した問い合わせ数で課金するモデルをすでに採用しています。

3. 内製化が加速する(が、品質の壁にぶつかる)
AIコーディングによって、システムを「買う(Buy)」より「作る(Build)」へのハードルは下がります。
しかし、優れた設計思想(アーキテクチャ)なしには、「ちゃんと動かないシステム」しか作れません。
特に日本ではIT人材の多くがベンダー側にいるため、多くの企業がこの「品質の壁」にぶつかるでしょう(ここに、私たちの支援の価値が生まれます)。

4. 「AIで人を減らす」の次に「最適配置」フェーズが来る
短期的なコスト削減を狙って安易に人を減らすと失敗します。
実際に、チャットボット導入で700人分の業務を代替しようとしたKlarna社は、品質劣化を招き、結局人間を再雇用することになりました。

Crescendo(クレッシェンド)がコールセンター業務をAI前提で再定義し、DatabricksやBlockがデータと意思決定のあり方を再構築したように、自社のあり方を根本から「リ・アーキテクト(再構築)」できるかどうかが問われています。
単に人を減らすのではなく、AIと人間がどう連携すれば顧客体験を向上させられるか。
この「最適配置の設計」ができる企業だけが、持続的な競争優位を築けます。

5. AIの恩恵が「提供側」から「利用側」にシフトする

AIの開発コストが下がるにつれて、最大の受益者はOpenAIやMicrosoftのようなAIの“提供側”から、AIを使って自社の業務を変革する“利用側”の事業会社へと移っていきます。
これら5つの仮説に共通して言えるのは、どの未来においても「設計できる価値」の重要性は変わらない、ということです。

荒波の中で、AVILENが目指す「AIファーストの共創」

市場がこれだけ大きく揺れ動く中で、私たちが掲げる「“AIファースト”の共創」というミッションの重要性は、ますます高まっていると確信しています。

各企業がこれから直面するであろう課題を考えると、私たちのように、小さくとも強く、企業のAI変革を設計・支援できる会社の価値は、むしろこれから飛躍的に高まっていくはずです。

私たちの戦略は、巨大なコンサルティングファームを目指すことではありません。
ポーターのU字曲線で言うところの「ニッチ・プレミア」、つまり、特定の領域で圧倒的に高い付加価値を提供し、ピカピカに輝く存在になることです。
少数精鋭で、私たちにしかできないAI変革を事業会社と共に創り上げていきます。

そして、その共創の中から、AIを前提とした新しい事業を生み出していく。
その第一弾が、先日発表したベルシステム24とのジョイントベンチャー「株式会社BA Intelligence」です。

この新会社では、AIを前提とした新しいBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)モデルの構築に挑戦します。
従来よりも低コストで業務を受託しつつ、裏側ではAIが働くことで、より高い利益を生み出す。このビジネスモデルを実現するためにも、やはり業務プロセスの「設計」が鍵となります。

【関連】AVILEN、ベルシステム24とAIエージェント実装型のBPOモデル構築を目的とした合弁会社を設立~AIソリューション力とBPO事業の融合により、AIと人が協働する業務革新を支援~

※なお、ジョイントベンチャー設立への想いについては、こちらの記事で詳しくお話ししています。
AIでBPOを“再構築”する。AVILENの合弁会社設立の真意とは。〜AIエージェントが変える52兆円市場の未来〜


世界は今、大きな変革の渦中にあります。
しかし、それは私たちにとって計り知れないチャンスでもあります。

AVILENはこれからも、データとアルゴリズムの力で、お客様と共にAIファーストな未来を設計し、人類を豊かにするというミッションの実現に向けて邁進していきます。