AI変革の最前線 #2 「意識はすぐには変わらない。だからまず行動する」 ~老舗SIerが挑む“泥臭い”AI変革と、未来を託す人材育成~

株式会社インテックソリューションパワー(以下、IntSP)は、長年にわたり顧客のITインフラを支えてきたシステムインテグレーターです。親会社であるインテックの事業を支える存在として誕生しましたが、現在では売上の半数以上を独自顧客が占めるなど、独自のポジションを確立しています。
同社は2024年、「インテック ソリューション パワー Vision 2032」を掲げ、AIを軸とした大きな変革の渦中にあります。その核心的な取り組みの一つが、株式会社AVILENと共に行う「AIエンジニア武者修行研修」です。
今回は、同社代表取締役社長の泉 肇一氏と、AVILEN代表取締役/データサイエンティストの高橋光太郎による対談を実施。AI変革における人材育成の意義、そして「変わる」ことの難しさと希望について、経営者同士の本音を交わしました。
登壇者
- 株式会社インテックソリューションパワー 代表取締役社長 泉 肇一氏
- 株式会社AVILEN 代表取締役/データサイエンティスト 高橋光太郎
「ビジョン2032」に込めた想い
株式会社AVILEN 代表取締役/データサイエンティスト 高橋光太郎(以下、AVILEN・高橋): 本日はよろしくお願いします。改めて、インテックソリューションパワーという会社について教えてください。
株式会社インテックソリューションパワー 代表取締役社長 泉肇一氏(以下、IntSP・泉氏): 親会社であるインテックがどんどん大きくなっていく中で、システム運用やオペレーションを担う会社として別会社化したのがインテックソリューションパワー(以下、IntSP)です。
今は売上で言うと親会社以外が半分以上で、100%子会社としては珍しい比率かもしれません。

AVILEN・高橋: 確かに珍しいですね。
IntSP・泉氏: インテックだけに依存しないで、独自のお客様をしっかり持っていきたいというのが私たちの特色です。インテックが狙っている事業のお客様とは、どうしても合わないところが出てくる。そこはIntSPでやろうというかたちでこれまで進んできました。
AVILEN・高橋: なるほど。グループとして見た時に客層も広いわけですね。インテックのお客様もいれば、IntSPのお客様もいて、それぞれの会社の特徴を持っているということですね。さて、IntSPは現在、「Vision 2032」を掲げて大きな変革に取り組まれています。このビジョンに込められた思いについてお聞かせください。

IntSP・泉氏: このビジョンは、私が社長に就任するタイミングで、委員長となって立ち上げた中計委員会で作りました。メンバーは課長クラスの中堅社員10名ほど。男女半々くらいのメンバーで、半年ほど議論を重ねてくれました。
AVILEN・高橋: 経営層ではなく、現場の社員の方々が中心となって作られたのですね。
IntSP・泉氏: はい。とにかく会社を変えたいという思いがありました。50年同じことを続けていると、どうしても組織に❝澱(おり)❞のようなものが溜まってしまいます。良い部分ももちろんありますが、一方で、どうしても受け身になっている部分があると感じていました。
お客様から言われたことはきちんとやる。それは我々のベースであり、強みです。しかし、裏を返せば自分たちから何かを発信したり、提案したりする力が弱いのではないかと。

AVILEN・高橋: その課題意識がビジョンの根幹にあるのですね。
IntSP・泉氏: そうです。ビジョンは2つのメッセージで構成されています。
1つはお客様に向けたもので、「単なる外注先でなく、お客様と共に歩む『ベストパートナー』になりたい」という思い。
もう1つは社員に向けたもので、「働きがいや楽しさを感じながら仕事をしてほしい」というメッセージです。
この変革を進める上で、ちょうど良いきっかけとなったのがAIでした。これからの社会において、AIは間違いなくリテラシーの一部になる。ならば、AIを手段として、我々がお客様のベストパートナーになる会社へと変わっていこうと。それがこのビジョンに込めた思いです。
AVILEN・高橋: ビジョンを掲げるのは簡単ですが、実際に組織を変えるのは難しいですよね。
IntSP・泉氏: 「意識なんてそんなに簡単には変わらないから、まず行動しよう」と伝えています。何十年も同じスタイルで仕事をしてきたわけですから、急に意識を変えろと言われても無理な話です。
だから、まずはやってみようと。行動すれば、その結果として意識が変わるかもしれない。失敗したとしても、「これは失敗だったんだ」とわかるだけでも十分な成果です。行動しないことには何も始まりませんから。
SIerが牽引する、中堅・中小企業のDX・AI変革の可能性
AVILEN・高橋: SI業界全体を見た時、今どのような課題があると感じていますか?

IntSP・泉氏: 労働力が減っていくのは間違いありません。ただ、日本においてSIerという業態はなくならないと思っています。AIがどれだけ発達しても、SIerの仕事がゼロになることはないでしょう。
我々SIerは、お客様の業務を、お客様以上に知っているという自負があります。お客様の担当者が変わっても、我々はずっとそのシステムを見守り続けてきましたから。だからこそ、我々が中心となってAIやDXによる変革を進めていける土台があると考えています。
AVILEN・高橋: その変革を社会全体に広げるためには、何が必要でしょうか。
IntSP・泉氏: 大手企業だけがDXやAIを進めても、日本は衰退してしまうでしょう。重要なのは、日本の9割以上を占める中堅・中小企業の皆さんです。
すべての企業がAIをリテラシーとして使いこなし、業務を変革し、新しいサービスを生み出していく。それができなければ、日本の未来は厳しいものになるのではないかと感じています。
ところで、高橋さんにお聞きしたいのですが中堅・中小企業のお客様にとって、AI導入のハードルはどこにあると思われますか?
AVILEN・高橋: 実は、変革のスピードという点では、中堅・中小企業の方が圧倒的に有利です。大企業が経営変革をしようとすると、まずデータ基盤を整えるだけでも大変です。業務システムの数も、意思決定に関わるステークホルダーの数も膨大ですから。
その点、中堅企業は組織が身軽で、トップダウンでの意思決定も速い。「やるぞ」と決まれば一気に進みます。実際に我々も中堅企業をご支援することがありますが、そのスピード感にはいつも驚かされます。
大企業は潤沢な投資余力やデータ量という強みがありますが、AI変革は10年スパンの長丁場です。その中で、中堅企業が持つスピード感は間違いなく武器になります。むしろチャンスだと考えています。

IntSP・泉氏: 確かに、大企業だと「どれだけ効果が出るのか」という投資対効果を厳密に問われて、なかなか前に進まないという話も聞きます。
AVILEN・高橋: 危機感も必死度も違ってくる。変革においては、その差が結果に直結すると考えています。
武者修行を通したAIエンジニアへの成長DXと成果観
AVILEN・高橋: そうした変革への思いが、今回の「AIエンジニア武者修行研修」(※)に繋がっているのですね。この取り組みには、どのような意義や期待を込めていますか?
(※)座学(e-Learning+演習)で、AIエンジニアとしての基礎力を向上し、さらにAVILENのAI開発案件にジョインし、実務経験まで得られる、SIer・SES事業者を主に対象としたプログラム。

IntSP・泉氏: まず、社内にAIを推進する人材を2桁以上作りたいんです。1桁だと、まだ「一部の人が何かやってる」くらいにしか見えませんが、2桁になると社内の見る目が変わってきます。「私もやってみたい」という人が出てきてくれるかもしれない。
まずは3期続けて(※)、何としても2桁の専門人材を育成する。そこからどうなるかを見てみたいと思っています。
(※)IntSPにおける武者修行研修は現在、2期目に突入。

AVILEN・高橋: 本研修では、参加メンバーを元の部署から完全に異動させるという非常に大胆な意思決定をされたと伺いました。
IntSP・泉氏: はい。片手間でできることではないからです。元の部署に残ったままでは、本人の負担も大きいですし、周りからも「何をやっているんだ」と思われてしまう。
実は過去に、DX推進で同じような取り組みに失敗した経験があるんです。そのときは、メンバーを元の組織に置いたまま進めてしまったため、結局自分自身の仕事に追われてしまい、大きな成果を出せませんでした。その反省があるので、今回は絶対にメンバーを現場から「外す」と決めました。
AVILEN・高橋: 経営者として、エース級の人材を現場から抜擢するのは、短期的な売上を考えると非常に勇気のいる決断だと思います。
ちなみに、第一期の受講生の方々は武者修行研修の成果として、ITだけではなくそこにAIスキルを習得することによって高付加価値人材へ変化したり、PMの指示をもとに的確にAI案件で業務をこなすことが可能なAIエンジニアまで成長したことなど、貴社にとってポジティブな面が非常に多かったと捉えています。
泉さんとしては、この取り組みの成果をどう測っていますか?

IntSP・泉氏: 武者修行を通していい成果が出たことは本当に素晴らしいことです。ただ、基本的には短期的な成果は求めていないです。個人的には「研修」という言葉すら使いたくないくらいで、お勉強ではなく、まさに「武者修行」なんです。
これまでとは違う文化の中で、違うやり方に触れる。それによって、彼らの意識が少しでも変わってくれれば、まずはそれで十分です。彼らは今、自ら「行動」したわけですから。
その行動が意識の変化に繋がってくれれば、それが最大の成果です。
AVILEN・高橋: 武者修行を終えた彼らが、社内の「エヴァンジェリスト(伝道師)」になってくれるといいですよね。
IntSP・泉氏: まさにそうです。現状、修行を終えたのは1期の3人だけで、彼らだけではまだ組織とは言えませんが、人数が2桁以上になれば組織として機能していけると考えています。
AVILEN・高橋: IntSPでそうした組織ができ、社内でAI人材を育成できるようになったら、素晴らしいサイクルが生まれると思います。

IntSP・泉氏: 武者修行をする社員には、新しい挑戦なのだからとにかく楽しんでほしいですね。そして、失敗を恐れずに思い切ってやってほしい。大事なのは結果ではなく、どう考え、どう行動したかというプロセスです。
多くのことを学んできて自社に、そしてお客様に還元してほしいです。
AI活用の二つの可能性:「暗黙知の形式知化」と「運用・保守の変革」
AVILEN・高橋: 今後、こうした人材育成にとどまらず、AIソリューション開発や業務変革などの領域で、AVILENとどんな共創が可能だとお考えでしょうか?
IntSP・泉氏: 我々もAI活用の事例を作りたいと強く思っています。まだ社内に専門家が足りないので、最初のうちはAIの技術実装などをAVILENさんにお願いすることになるかもしれませんが、そこに我々の武者修行を終えたメンバーが加わって一緒にプロジェクトを進めるというかたちから始められたらいいですね。
また、我々のお客様には製造業が多いのですが、そこには「暗黙知の形式知化」という根深い課題があります。ベテラン職人の持つノウハウやスキルを、どうやって若手に継承していくか。かつてIoTでやろうとしてうまくいかなかったことが、AIならできるのではないかと考えています。
AVILEN・高橋: その領域は今、非常に盛り上がっていますね。熟練の職人とAIがペアを組んで業務を行うことで、AIが職人の技術を学び、成長していく。そうして育ったAIと若手が組めば、技術伝承が可能になる。そんな世界が現実になりつつあります。

IntSP・泉氏: もう一つは、我々の本業である「運用・保守」のあり方そのものを変えることです。現在の運用業務は、決められたマニュアルに沿って対応するのが基本です。しかし、そこにはマニュアル化できないベテランの「勘」のようなものが介在している。
そうした部分をAIが学習すれば、今かかっている人員を大幅に削減できる可能性があります。そうなれば、オペレーターの仕事も変わります。現場では、決められたマニュアル通りの作業が求められ、ある意味でモチベーションを上げにくい環境です。
しかし、AIと協業する形になれば、単なる作業者ではなく、AIを活用して「もっとこうできるのでは」と考える、より創造的な役割を担えるはずです。社員の働きがいも大きく変わるでしょう。
AVILEN・高橋: まさに、IntSPの事業の根幹が変わる可能性を秘めているのですね。
IntSP・泉氏: はい。我々の事業は、どちらかといえば安定したものでした。しかし、AIの登場は、我々にとって千載一遇のチャンスだと思っています。
決められたことを忠実にこなす真面目さだけではなく、新しいものに挑戦し、失敗から学び、そこから価値を生み出していく真面目さ。それこそが、我々が目指す「AIベストパートナー」への道なのだと思います。
AVILEN・高橋: IntSPから武者修行研修に参加する方々は皆、真面目に取り組む姿勢がすごく印象的です。その真面目さが、やがて「違う真面目」に変わっていくといいですね。
本日はありがとうございました。

記事の筆者

株式会社AVILEN マーケター
立命館大学文学部を卒業後、大手地方新聞社、ビジネス系出版社での編集、広告営業職を経てブレインパッドにマーケターとして参画。2020年にDX、データ活用をテーマにしたオウンドメディア『DOORS -BrainPad DX Media-』を編集長/PMとして立ち上げ、グロース。ブランディングとプロモーションを両立したコンテンツマーケティングで成果を上げ、2022年にグループマネジャーに昇進。2025年7月よりAVILENに参画。



